「新選組の料理人」 門井慶喜 光文社
門井慶喜の作品を読むのは初めて
以前、文豪はどんなホテルで文筆をしているのか?みたいな番組に出演したのを見て
偉そうでもなくかっこつけしいでもない親しみやすい人柄が気に入って読んでみようと
直木賞受賞作の「銀河鉄道の父」じゃないところが私の捻くれ度を表しているのでしょうか
新選組の料理人、題名の通り主人公は新選組で賄い方をしていた男
菅沼鉢四郎、32歳
備後の国福山藩で畳表改方という端役をつとめる家の四男
家柄、兄弟の数などで分かるようにこのままじゃ生活できないポジション
幸いにして、頭の方は悪くなく読書きは得意だったのだが、剣の方は全くダメ
幕末とはいえ、ちょっとは出来なきゃぁ、ねぇ~
縁あって郡奉行付水引番(この役職も何だかねぇ~なお仕事)の家へ婿養子に入るが、嫁と実父が気味が悪い程に仲が良く(親離れ子離れの域を超えている様な)夫婦の生活もあってないような状態
仕事柄、出張が多く度々訪れる出張先で15歳の農家の娘(おこう)に行く度に勉強を教えたりしているうちに理無い仲になり、子ができてしまう
鉢四郎は婿養子の身、どうにも出来ずにおこうと二人で京都へ出奔
京都で無事娘を産んだおこうだが、鉢四郎はなかなか収入に結びつく様な仕事がなく若い嫁おこうが料理屋へ仕事に行き、鉢四郎は主夫として幼い娘の育児や食事などの支度をすることになったが、これが案外性に合っていて離乳食など上手いこと作ったりしていた
この時期の京都は、あちこちで反体制派と幕府との争いが起きていて、蛤御門の変で広がった火災によって鉢四郎一家は長屋を焼け出される
被災者生活を送る中、おこうと子供は勤め先の料理屋へといってしまい、一人被災者小屋で生活を送る中
新選組が行った炊き出しをもらいに行ったことがきっかけで出会った原田左之助にスカウトされ新選組の賄い方として入隊
剣の方は話にならない鉢四郎なので、新選組の内側の人間関係などを垣間見たり肌で感じたりする事が主な話
今までの新選組の小説でよくある有名な場面(竜馬と近藤との初対面だったり)でも見方が違うと切り口も違う内容で
幕末モノがあまり好きではない人でも楽しめる内容(反対に、幕末モノが好きな人には物足りなさすぎかも)
入隊のきっかけとなる「炊き出し」の話も、反体制派の薩摩藩がふるまう炊き出しがえらく人気でこのままだと京都の住民の人気がそっちへ傾いてしまうというような危機感から、会津藩が新選組に命じて炊き出しを試みたがこれが不味くて、そこで「不味い」と言ったこと(調理法の悪さなどを指摘)によって鉢四郎が賄い方としてスカウトされるわけ
鉢四郎が賄い方として入隊したことでご飯が美味しくなり隊士たちは大喜び(笑)
食事の話もありつつ、新選組が近藤局長をトップとして体制を変えていく様(以前は近藤に直接話を言えていた隊士もいつの間にかお目通りすらそう簡単に出来ない体制へ変わっていく)を仕事柄、間近で見る事ができた鉢四郎の目を通して語られる
新選組が京都を離れ、最期の戦いの場へと隊列を組んで進んでいくところで鉢四郎の話は終わる
新選組を題材にした小説では当たり前の斬り合いのシーンは少ないが、鉢四郎の妻の不倫、妻の事をいつまでも諦めきれずストーカーのようになる鉢四郎、それを宥めたり慰めたりする原田左之助との関係や、仲が非常に悪い隊士と一緒に任務に就くことになった鉢四郎の話、作戦が裏目に出て処刑されてしまった近藤の首の行方の話、五稜郭まで土方と同行することになった年若い青年と土方の話など、笑ったりホロリとしたり
面白い言い回しなど、私の好きな作家「佐藤雅美」や「岩井三四二」と似た雰囲気がする小説でした