「竈河岸 へっついがし」 宇江佐真理 文芸春秋
著者が亡くなる直前の発売でしたね
「髪結い伊佐次捕物余話」シリーズものです
前半は、龍之進の妻「きい」の日常がまるで早口でしゃべるように書かれている
まるで生き急いでいる様な文章
きいは町人の娘であったが武家に養女にはいると言う形をとり、龍之進の嫁になったが未だに町人の頃の口癖が残っていたり、堅苦しい同心の妻たちのお茶会の手伝いで上司の妻のいじめに真っ向から立ち向かって言い負かしたり・・とこれからが楽しみな様子
松前藩下屋敷にいる龍之進の妹茜も伊佐次の息子で絵師の元で修業中の幼馴染の伊与太との仲がほんの少し進展していきそうな気配
頑なだった茜だが、甥っ子が生まれた事で自分の人生の先を考える様になってきたのかもしれない
伊与太は歌川国直の元で修業中だが後から入った才能あふれる芳太郎との関係に嫌気がさし葛飾北斎の紹介で信州へ旅立つ
いつ帰ってくるのかも分からないが信州から茜も元へ何枚かの絵が送られてくる
二人の心は離れずに繋がっている
伊与太も茜との将来をふっと夢見てしまったりしている
町人の娘だったきいと、武士の龍之進の結婚は、茜と伊与太が将来結ばれるかもしれないという話の布石だったのかもしれないが、作者が亡くなってしまったことでこのまま終わってしまうのかもしれない
これはこれで、幸せな予感を漂わせて終わるので髪結い伊佐次シリーズが馴染みでは無い読者には小説として楽しめるかもしれないが、長年の読み続けていたファンはこれで終わってしまう事が残念でならない
この続きが1篇でも原稿があればなぁと夢のような事を思って諦めきれない気持ち