「人魚ノ肉」 木下昌輝 文芸春秋
舞台は幕末
登場人物は、坂本竜馬、岡田以蔵、沖田総司、その他新撰組の隊士たち
土佐須崎の八百比丘尼伝説(人魚の肉を食べ不老不死になる)とキリスト教の邪教を絡めて、実際にあった史実にうまくフィクションを入れてるホラー作品です
荒俣宏の「帝都物語」のような、夢枕獏の「キマイラ」のような作品
血を欲する描写とか表現力がすごいです
「竜馬ノ変」少年時代の岡田以蔵、中岡慎太郎、坂本竜馬が人魚の肉を食べてしまう話なのだけど、身分の低い以蔵のなんとも卑しい行動や一番身体が小さかった竜馬が以蔵にひっぱられる形で人魚の肉を食べてしまう。その後の事は(ここでは)特に説明もされずに場面は竜馬と中岡の最期(近江屋事件)へと移るがそこに竜馬が人魚の肉を食べる前に見かけた白塗りのお遍路が現れ、竜馬は自身が死ぬ瞬間から抜け出せずにその場面を何度もリプレイしているという話。
全ての話に、この時の人魚の肉と血が関わる。
「妖ノ眼」芹沢鴨の横暴な支配。芹沢配下の隊士達は、いつ芹沢の逆鱗に触れて殺されるか分からない状況の中にあり、精神的に追い込まれた情況にあった平山五郎は以蔵から「今よりも強くなりたいか?」と人魚の肉を勧められ食べる。幼い頃のケガで隻眼であった平山だが食した後、自分だけが分かる目の見えない左側に三つの目が現れ死角がなくなり人の死の場面が見えるようになる。
近藤、土方達の芹沢暗殺にこの平山の話を上手くはめた話。
「肉ノ人」沖田総司の結核で死んだのではなく、実は違う原因があったという話。ここに登場する安藤早太郎がその肉を近藤勇、斎藤一、沖田総司に酒の肴として勧める。この安藤の容姿を実際の年には見えない若さで・・としており、その後の話に出てくる人物と繋がって来るという一話完結の様で実は全部繋がっている話。ここでは山南敬助の切腹の理由もこの話に沿った形で語られる。恐い話でいながら、この話は近藤や山南、土方がいかに沖田総司を大切に思っていたかが書かれている唯一温かいラスト。
ここで初めて八坂にいた女陰陽師が隠し持っていた禁書(キリスト教の邪教)の話が登場し、人魚の肉と邪教が繋がる。
「血ノ祭」時代が少し遡る。扇子を扱う駿河屋の息子は隣に住む幼馴染の娘が病気治療として関わる女陰陽師一派に興味を持つ。娘のもとに通ってくる少年にも興味を持ち誘われるままに女陰陽師一派の家に行きそこで禁書を目にする。陰陽師を名乗ってはいるものの信仰しているものは邪教であり死者を甦えらせることが出来るという。ここでは邪教の内容が少しずつ分かって来る。ここで少年が見た禁書が流れ流れて後に沖田総司が目にすることになる(肉ノ人)。
「不死ノ屍」新撰組の後半期時代の話。伊東甲子太郎の配下の佐野七五三之助を執拗に挑発し狙い続ける男、大石鍬次郎。大石は人を斬る時にわざと一度で絶命させずいたぶりながら殺す殺戮を楽しむ男。大石は、人魚の肉の事をどこからか聞きつけたらしく剣の腕が立つ佐野を斬り応えのある標的として襲う。
「骸ノ切腹」武士に憧れて新撰組に入隊した商家の息子と町人の子が近藤勇より直々に武士のたしなみとして切腹の作法を習う。仲の良い二人だったが、一人が非業の死を遂げた後からいつも友が立っていた側にずっと気配を感じ続ける男。男は友が切腹をする時に満足な介錯が出来ず無様な死に方をさせてしまった事を後悔し、その恨みで友が成仏できないと思っていた。近藤勇が斬首になると知った時に友は姿を現し男に何かを告げる。斬首になった近藤の魂を成仏させるために男がとった行動とは・・・。
「分身ノ鬼」ある時から自分の分身がいる事に気付く斎藤一。実際に自分の分身にも会い、ある時は戦場で対峙したりする。それはただの幻というわけでもなく、実在している様子。斎藤一が名をかえていた事にヒント得て出来た話か?
「首ノ物語」岡田以蔵のさらし首の見張り番をしている男。ある晩、後方にあるさらし首が話し出す人魚の肉の話。
人魚の肉を食べて血も飲んだ以蔵は、やっぱり首だけになっても死ねないのか?
ラストで人魚の肉についてをその声(多分さらし首の以蔵)がざっと説明するので見落とした話もここでわかる
この作品は、書き下ろしという事だが、最後の1ページまでぎっしり話が詰まっていて読者大満足な作品。
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