「御松茸騒動」 朝井まかて 徳間書店
面白い本だったけれど・・・、朝井まかて作風変えた?な印象
コミカルな文章(会話)が多く、佐藤雅美や岩井三四二作品で見られる可笑しさに近いかな?
主人公は榊原小四郎(19歳)、徳川・尾張藩の藩士で父の清之介が定府藩士(定府衆と言い、殿の滞在年に関わらず江戸藩邸に勤め役宅も広大な邸内に賜る)となったので小四郎は江戸生まれの江戸育ち
この時代の尾張藩について少し説明しておくと・・・
当時の尾張藩の置かれている状況はあまりよろしくない
八代将軍の座を紀州徳川の吉宗公に奪われてしまってからは以前の御三家筆頭の力は無い
将軍選びの際に幕府や大奥への工作を積極的に行った紀州藩に比べ、家老から家臣にいたるまで呑気にしていた尾張藩の政治手腕の無さを世間は嗅ぎ取り、それ以降の尾張は「大根」と呼ばれるようになってしまった
葉も萎びて旨くもない大根というのが尾張藩の実情
尾張では上質の松茸が沢山とれていたため将軍家への献上品としていたが現在では他藩でも松茸が取れ出している上に尾張藩の松茸の生産量は落ちて来ている
父の病で家督を継いだのが18歳でその後父は亡くなり、現在小四郎は上屋敷で用人手代見習いとして経理や庶務に携っているが、このまま軽輩で終わるつもりなどないと考えているため仕事は真面目だが融通が効かない
上役達の仕事はいい加減でまだ若い小四郎はそれを許しがたく思っており上役にもそれが分かるような態度に出ているので上役にしてみれば鼻につく若造
そんな状況の中、亡父の旧友が尾張から江戸に出て来て小四郎の案内で江戸見物をしている最中に脇差を掏られるという失態を犯し同行の小四郎も科を受け、国許の尾張で御松茸同心という職につかされる事になる
所謂、上司に疎まれた左遷である
業務命令は「松茸の生産量を上げる」という無理難題
尾張に入ると未だに町民にまで慕われる宗春公の存在(宗春は謹慎中の身)を知り、仕事先の上野御林に関わる山守、山本権左衛門やその娘(この田舎丸出しの娘が口が悪く小四郎を小馬鹿にしてものを言うので笑える)や村人との関わりの中で松茸の成長の仕組みを少しずつ理解していく小四郎
クライマックスは、松茸生産に関わる者、皆の願い「宗春公にもう一度松茸狩りをさせてあげたい」という思いを実現するため奔走する
当初、小四郎は結果を出して直ぐに江戸へ戻るつもりでいたが尾張に骨を埋めようかと思うまでに成長する
短い話だが、年数はそれなりに経過している事になっており「運よく解決」というような話ではない
主人公を含め、登場人物の大半が「面白い人達」で映画にしても面白い作品になるんじゃないのかな?
低予算の作品でね (^_^;)