木沢氏の残党の頭領は木沢具行といい、
八尺近くある大男である。
馬上で大槍を振るい暴れる姿は鬼人の如きと噂である。


「政忠よ、奴の弱点をつくのじゃ、
数は我々の倍はおるが、所詮は一度滅んだ一族の残党よ。
頭領がいなければ、烏合の衆よ恐れるに足りん」、


そうは言ったものの、道龍の心の中では「恐怖」の
二文字が無いといえば、嘘になる。
何せ、軍勢を率いた戦など一度もしたことが無いのだ。


「そうですな。今は霧風が身辺を探っておりますが、
詳細な情報は今しばらくお待ちくだされ。」


頭の中で得ている情報を整理しながら、政忠は続けた。
「されど、具行は随分な酒好きのようで、
しかも酔うと部下に暴力をふるうとか、
決して、人望の厚いような人間ではないようですぞ。
また、息子の行信も父に似て、傲慢不遜の人間だとか、
自領の農民からも評判はあまり良くはないようです。」


周囲に誰もいないことを確認した後、再度、政忠は続けた。
「それゆえ、想像よりも木沢氏を討つことは容易いかもしれません。
それよりも恐れるべき存在は木沢氏に助力する存在です」


一瞬、目を大きく開いた道龍は矢継ぎ早に聞く。
「木沢氏の背後には誰がおった?調べはついたか?」
「そうですな、どうも三好長好が配下の松永久秀なるものが怪しいかと思われます」
「三好、松永久秀…、えらく大物が出てきたものよ。
やはり、大和へも食指を動かしていたか…」
不気味な予感に一瞬、道龍は捉われたがすぐに消えた。


「武器は着々と京より運ばせております」
「そうか、数は集まりそうか」
「早々に集まりますでしょう。冬までにはすべて揃うでしょう」


「津川殿とも攻め入る時期を詰めねばならん」
「津川様からの援助は得られますでしょうか」
「政忠、この戦は我らの戦じゃ、彼らの助力は仰ぐつもりはない」

「あくまでも津川殿には監視役に徹底してもらう」
「しかし…」、やや困惑するように政忠は言った。


夏の暑い時期は過ぎ、蜩が鳴くようになってきた、夏も終わりが近い。
収穫の時期が近いのだ、忙しい時期がやってくる。
しかし、心の半分は木沢氏攻略の戦術に奪われているのだ。
道龍の遅咲きの初陣は近いのだ。


第四話:初陣前夜 」に続く