明らかにソワソワしだした、アサミ。時計も、無意識のうちに見てしまっていた。
「カラン・カラン」
ドアベルが、不意に鳴った。
アサミが、勢いよく振り返った。そこには、中年の男性が立っていた。傘と、格闘中。
がっかりしたような表情を作り、あさみは元通りの姿勢へと戻した。
そして、大きく一つ、息をした。
「アサミちゃん。落ち着いてください。」
マスターが、苦笑いをしながら、声をかけた。
「何だかんだいって、これだもんね。」
新しいグラスで、喉を潤すあさみ。
その様子を見届けて、マスターは新たな客の元へと行った。
”私も、何だかんだと、だめだな。どんな結果も、受け入れるって決めたのに。”
そう、どんな結末であっても、今日一つの物語が終わる。
しばし、静かな時間が流れた。いつもなら、心地よい時間である。
しかし今は、アサミを重苦しくするのみであった。
気づけば10時半を、既に回っていた。アサミは、ただうつむいている。
グラスにも、手をつけていなかった。
アサミは、小さく何度かうなずいた。何かを、自分に言い聞かせているようであった。
”あとすこしだけ・・・。”
アサミの瞳からは、涙がこぼれ落ちだしていた。それを、拭こうともしない。
マスターは、黙って見ているしかなかった。
こんな時、どんな言葉をかければいいのか。マスターは、もちあわせていなかった。
だれにも、無いのかもしれない。どんな言葉も軽く、今のあさみを慰めることは、できないだろう。
10年とは、それ程長いのだ。
少しして、またあさみが、小さくうなずいた。
”そうだよね。やっぱり、そうだよね。”
アサミは、黙って目を閉じた。
”やっぱり、私の事なんて、忘れちゃったよね。そうだよね。誰も、本気で10年待ってる女がいるなんて、思わないよね。”
アサミは、10年を噛み締めていた。確かに、長かった。
そう、逢わないでいる10年は、気の遠くなるような時間だったかもしれない。
覚悟は、していた。待っているのは、自分だけだと。
でも、現実になると、やはり辛かった。
アサミは、窓へと視線を向けた。雨が、いつの間にかやんでいた。
空は、アサミの為に泣いてくれないらしかった。
遠くで、救急車のサイレンの音が聞こえる。一瞬、悪い予感がよぎる。
そんな考えをアサミは、すぐにうち消した。
”ドラマじゃあるまいし。”
表情が、変わった。決意にも似た、表情であった。
「零。さようなら。」
窓の外を見たまま、アサミがつぶやいた。
次回で「物語・約束」終わりです。
今回、ブログにアップするにあたり、零のエピソードをバッサリとしました。
本当は、今回アップ分の前に、零のお話が有ったんですが、なんかじゃまだなーと
思って、思い切ってバッサリとしてみました。
次回、アサミの物語が終わります。
読んでくれている方々の期待通りか、それとも裏切られたーとなるか・・・。
最後まで、アサミにつきあってください。
でわでわ
