小春日和の中を、まるでピンク色の雪が静かに降っているかのようであった。
その中に、竜二と百合子が桜の木を見上げるように立っていた。
竜二は、ワイシャツに黒のスラックス姿。その肩には、大ぶりの鞄がさがっている。
あれから、一年の時が流れていた。
冨美子がいなくなってしまった世界。しかし世界は無情にも、何事もなかったかのように時間は過ぎ去っていた。
彼らの時間も。
「とうとう、行くんだね。」
百合子が、ポツリとつぶやいた。返事は、無かった。
いや、それが返事だったのかもしれない。
静かに流れる時間。
「あの日、ここで彼奴に言うはずだった。前の日言おうとしたら、ここでと言われて。」
しばしの沈黙の後、竜二が話し出した。それは、百合子の知らない話だった。
竜二はこの一年、冨美子の話をいっさいしてこなかった。
百合子は、黙ってその言葉に耳をかたむけた。
「一緒に、店をやろうと言うはずだった。だから、俺が帰ってくるまで、まってて欲しいと言うはずだった。」
百合子が、うつむいた。どこか、悲しげな表情である。
まるで、竜二の言葉を聞きたく無いかのようでもあった。
「愛していると、言うはずだった。」
百合子の頬を、涙が滑り落ちていった。
百合子には、わかっていた。入り込む余地など、最初から無いと。しかも、今隙間に入り込もうとすれば、親友を裏切るような、罪悪感もあった。
それに、竜二のも親友を裏切ってほしくなかった。
複雑な感情が、百合子を襲っていた。
それでも、自分の気持ちを伝えたかった。
出来るはずも無かった。
竜二が、そんな百合子を、少し悲しげに見つめている。百合子の思いに、気づいているのであった。
しかし、それに答えてやることのできない竜二。
出来るはずも無かった。
自分の中には、今でも冨美子がいる。
時間は、解決してくれるのであろうか。
「行くよ。」
不意に、竜二が傍らに置いてあった、鞄を肩にした。
「帰ってくるよね。」
百合子は、うつむいたまま聞いた。彼の顔を、見ることが出来ないでいる。
「あぁ、いつか必ず。」
竜二の声は、凛として力強かった。
それは、誰に向けられた言葉だったのであろうか。百合子か、それとも桜にか。
竜二は、歩き出した。もう、後ろを振り返ろうともしない。
百合子は、見送ることも出来ずに、立ちすくしているだけであった。
黄昏ゆく夕暮れの中で、ただただ涙する、百合子がいた。
「ずっと、待ってるから。この、町で。」
必死の、言葉であった。
照明も落とされ、いくつかの間接照明だけの空間に一人、カウンター席に腰を下ろす男がいた。
そこは、所狭しと壁一面に酒の瓶がおかれた、バーであった。
男は、外に視線をおくっている。どこか、清々しくみえる。
先ほどまで降っていた雨は、止んでいた。人通りは、すでに無くなっている。
男はどこか楽しげに、空になったグラスに琥珀色の液体を注いだ。
それを口に運ぼうとしたとき、店のドアが開いた。
「よろしいかしら。」
入ってきたのは、品の良さそうな女性であった。男と、同じぐらいのとしだろうか。
男は、クスリと笑って見せた。そして、自分の隣の席を指さした。
「もう、閉店したんですけどね。」
「あら、それはよかった。ゆっくり飲めるわね。」
男は、苦笑いをしながら自分と同じ物を、女に差し出した。
カチャンと、心地よいグラス同士がぶつかる音が、店内に響く。
同時に女が、一気にグラスの中身をからにしてしまった。
男は何も言わずに、ウイスキーをそのグラしに注ぎ込んだ。
「あの子、大丈夫かしら。」
「えぇ。自分の脚で、しっかりと歩いて行きましたよ。」
「そう。」
「じゃぁ、もう大丈夫ね。」
女は、満面の笑顔を作った。
幸せそうな、笑顔であった。男も、目を細めて笑った。
「ごめんなさいね。10年もおもりをさせちゃって。」
「良いですよ。俺はあの子に、何もしてやれなかったんだから。」
女が、少し驚いたような表情をした。それはすぐに、苦笑いに変わった。
「やっぱり、気づいてたんだ。」
「はい。でも、聞けなかった。」
男は、悲しげな眼をした。
「あの時、中途半端な気持ちで百合子を抱いてしまった。」
男の手に、女・百合子の手が置かれた。そして、首が静かに横に振られた。
「私が望んだこと。竜二がボロボロになって帰って来たとき、私が女として、卑怯な事をした。」
男・竜二が、百合子を見つめた。
「しかし俺は、現実から眼をそむけて今まで来てしまった。百合子に、押しつけて。」
「いいのよ。私は、誰とも結婚する気も無かったし。でも、子供が欲しかっただけ。それに貴方は、いままでアサミを優しく見守ってくれたじゃない。それだけで十分よ。」
静かな時間が、二人の間に流れた。
しばらくして、竜二がグラスをグイッとやった。
そして、「許してくれるよな。」と、ささやいた。
百合子が、「何?。」と、聞き返すと竜二が、すくっと立ち上がった。
「まだあの桜、散ってないかな。」
竜二は、外に目をやった。
その言葉を聞いた百合子は、「きっと、大丈夫よ。」と、言いながら同じく立ち上がった。
「今から行きましょうか。あの、桜のもとに。」
「えぇ。行きましょう。あの、桜の下に。」
二人は、幸せそうな笑顔であった。少年と、少女のような笑顔で店を後にするのであった。
若者達の間で、密かにささやかれている、伝説の桜の下に行くために。
桜は、待っていてくれるだろう。この二人のためなら、その花弁を散らせずに。
いかがでしたでしょうか。
物語・伝説
もう少し、練ったストーリーにしたかったのですが、・・・。
あーーーーー力不足だー

もっと、本を読まねば。
とりあえず、このお話はここまでです。
こんなつまらない小説に付き合ってくださった方、有り難うございます。
懲りずに、また書きますので、よかったら読んでやってくださいm(_ _ )m
でわでわ
