「おはよう。」
眠い眼をこすっている冨美子は、突然後ろから声をかけられた。
振り向くといつの間にか登校していた、浅川百合子が席についていた。なにか、言いたげである。
「おはよう。・・・」
冨美子が、返事をした。すると百合子は、グイッと顔を近づけてきた。
「何よ。」
「この不良娘。」
からかうように、百合子が言う。その表情は、どこか悪戯を思いついた子供様な表情であった。
冨美子は、少しドギマギしている。
「昨日、見たわよ。里村と、喫茶店から出てくるところ。しかも、制服で。」
「あっ・・・。あれわね・・・。」
冨美子は、慌てた。見られているとは、思いもしなかった。
しかし、見られていたのが百合子で良かったと思っていた。
二人は、親友であった。
もしも、真面目がうりのクラス委員長などに見つかっていたら、何を言われるかわかったものでない。
しかしながら、百合子の表情からして、かなりからかわれる事はひっしであった。
「学校帰りに、何話してたのよ。この、親友に話してごらん。」
百合子の目が、キラキラと輝いている。これは、しつこそうだと思う冨美子であった。
「別にたいした話は、してないよ。竜二が寄ってこうって言うから。喫茶店なんて、滅多に行かないから。それで・・・。」
「フーン。で、何話したのよ。」
これは、正直に言わないとしつこそうであった。
冨美子は、あきらめ顔になった。
「帰りに、話すわよ。」
百合子が、満面の笑顔を作った。
「じゃぁ、今日冨美子の家に行くね。」
「・・・。はい。」
冨美子の負けである。
今日は、竜二と帰れないなと、密かに考えていた。
”後で、言ってこないと。”
冨美子は、授業を受けながら昨日のことを思い出していた。
それは、初めて聞く竜二の夢の話であった。
竜二は、高校を卒業したら、親戚の人がやっている「バー」とかいう飲み屋に修行に行くと言うのだ。
そこで何年か勤めて、自分の店をやりたいと言っていた。
そして、いろんな人と知り合いたいそうだ。
冨美子には、今ひとつピントこない夢であった。そもそも飲み屋なんて、理解できない。
そもそも、そんなことになったら逢えなくなってしまう。
今の冨美子には、耐えられない事であった。
でも、そんなことは言えるはずもなかった。二人はまだ、ただのクラスメイトなのだから。
それともう一つ。
それは、外国を旅してみたいというものだった。
いろんな人や、文化に触れてみたと言っていた。まぁ、これは実現不可能だと思うと笑っていた。
でも、もし同じ夢をもった人が現れたら、何らかの方法で応援したいとのことであった。
冨美子は、竜二が自分だけに夢を語ってくれた事が嬉しかった。
でも、その夢が本当になったら、どうしようと思ってもいた。
竜二が、いなくなるかもしれない。
今は、考えたくない冨美子であった。
「そうなんだ。」
どこか神妙そうに百合子が、あいづちを入れてきた。
テーブルの上の、駄菓子をつまむ手が、いつの間にか止まっていた。
「それで、冨美子はどうするのよ。いっそ、告白しちゃいなさいよ。」
冨美子の顔が、みるみる赤く染まっていく。
「そして、一緒についてっちゃいなさい。」
百合子が、優しげな表情で冨美子を覗き込んだ。
「でも、私からなんて・・・。」
「あんたも、古いねぇ。今時、女から告白しないもんだなんて、時代遅れだよ。」
百合子は、手近にあったお菓子を一つつまんで、口の中に放り込んだ。
「だって・・・。」
冨美子は、モジモジしながら下を見てしまった。
「かわいいね。冨美子は。」
百合子は、少し考えてから話を続けた。
「知ってる?。先輩から聞いたんだけど、校庭の桜の下で告白するとずっと結ばれるるんだって。」
冨美子が、興味津々とばかりに顔を上げた。
「でもね、いつでもいいわけじゃないんだって。桜の花びらが、雪みたいにふってくる中でないとダメなんだって。」
「雪みたいに?。」
「そう。風が少しだけ吹いてる時に、花びらが、ひらひら落ちてくる中だって。」
冨美子は、想像してみた。
満開の桜が、静かにその花を散らす風景を。
その中に立っている、二人を。
そして、ますます頬を赤くする冨美子であった。