明くる日恵美は、朝から丘の上にやってきた。快晴の空が、心地良い。
今日も海からは、涼しい風がふいていた。
「ん-・・・。気持ちいい。」
恵美は、大きくのびをしてベンチの傍らにいる大木の根本に、腰を下ろした。
そして、上を見上げた。そこには、大きく張り出した枝があった。そして、青々とした葉が日差しをさえぎっている。
恵美は満足げに笑みをうかべ、木の幹に背中をあずけた。そして、目を閉じた。
風が駆け抜け、草が、木がざわめく。ただ、それだけの時間が過ぎていた。
静かな時間。恵美は、響夜や姉がここが好きなわけが解った気がした。街の雑踏とは無縁の場所である。
姉の日記にを、恵美は思い出していた。
この場所が好きだと、何度も出てきていた。
”本当にここは、気持ちいい。”
恵美は、草花の音を聞き。木々の葉音を聞いていた。
”姉さんは、ここで何を感じていたの?。”
風は、答えてはくれない。
恵美は、小さく寝息を立て始めた。
どのくらい寝たのだろうか。恵美は、微睡みの淵から戻りかけた。しかしまだ、目は開かない。
意識は戻ってきてるのに、体はいまだ休息中である。
そんな恵美に、声が届いてきた。そんな気がしたのである。
人の気配は、感じられなかった。相変わらず、心地良い風の感触しか無かった。
それなのに、声が聞こえるような気がした。
”夢?”
恵美は、そう考えた。
『もう時期だな。』
『そうだな』
『今回は、どうするんだ』
しばしの、沈黙があった。なにか、ためらいの様な空気が流れた。
『この娘は、夜雲の者であろう。』
『あぁ』
『偶然か?。それとも、お前が呼んだか?。』
重苦しい間が、支配した。
恵美は何故か、起きるのをためらった。
声の主が解ったからである。一人は、響夜の声である。昨日少し聞いただけだが、自信はあった。
もう一人は、昨日の幻聴の声であった。こちらは、老人のような声である。
しかしこれは、夢だ。そう、恵美は納得しようとしていた。
『呼んだな、おぬし。また、邪魔をするのかね。』
声には、失笑の色が含まれている。
『お前は、自分を愛してくれた者すら犠牲にする。そんな、人間だったな。』
『うるさい!。』
『怒るか。闇を統べる者、響夜よ。』
『黙れ。』
響夜の声には、殺気が込められていた。
『お前は、お前を愛してくれた者を、私に差し出したのだ。他にも、方法があったというのに。』
会話は、ここで終わった。
恵美がいくら待っても、もう声は聞こえてこなかった。
”夢・・・なの?”
どこか会話は、リアルであった。
ためらいはあったが、恵美は思い切って目を開いた。今度は、体がいうことをきいてくれた。
ハッとする恵美。視界に入ってきたのは、本を手にベンチに座る響夜であった。
「来てたんだ。」
「あぁ」
間髪入れずに、響夜の返事があった。
恵美は、しばらく響夜を見つめていた。どこか、線の細いイメージがわく青年であった。
ほっそりした体つきである。
ふと、先ほどの夢の中の会話を思い出していた。
『闇を統べる者。響夜。』
なぜか、しっくりくると思う恵美であった。