小説みたいなもの(短編)--物語・約束--その3 | ひでごんの独り言&小説みたいなもの

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何か気ままに
書いていこうと思います。

 二人が出会った頃、いつも零がアサミを呼び出して、零一人が話しまくっていた。そして不思議とアサミは、いつも零の話に付き合っていた。

 最初の頃は、酒をおごってくれるからであったが。しかし、いつしか・・・。

 「そんな零が、好きになった。」

 アサミがゆっくりと、視線を零へと向けた。

 零は、少し驚いた。アサミの表情に何か、決意の様な色があった。

 「そうだよね。そんな零を、好きになっちゃったんだもんね。」

 ニコリとアサミが、笑った。同時に、大粒の涙が流れ落ちる。

 「行って来い。零の、夢の場所に。」

 とめどなく落ちる、涙。

 「アサミの分まで、感じてこい。」

 零が、なんともいえない表情になった。

嬉しいのか、それとも苦痛なのか。零は、複雑な気持ちになっていた。

今までずっと一緒にいたアサミを、おいていく後ろめたさと、夢に向かうための最後の足枷が無くなった嬉しさが、入り交じっていた。

 そう、夢に向かって走り出し準備が、整ったのである。

 そしてアサミの気持ちは、もっと複雑であった。

行くなと、叫びたかった。今すぐ抱きついて、アサミを一人にしないでといいたかった。

 言えなかった。

 惚れた男に、夢を諦めろと言えるはずもなかった。

すぐそこに有る、夢。

 「そして、10年後の今日、ここに帰ってきて。」

 アサミの顔は、涙でぐずぐずになっている

 「そして、アサミの30才の誕生日をお祝いして。おばちゃんになった、アサミを笑いに来て。」

 涙を拭こうともせずにアサミは、零の顔をジッと見つめていた。その顔を、脳裏に焼き付けるかのように。

そして、言えるはずもない言葉が、喉まで出てきてしまう。アサミは、必死にこらえた。

言ってしまったら、きっと歯止めがきかなくなる。

 「アサミは、必ず来る。この椅子で、お祝いしてもらうために。零の、10年間のバカ話を聞くために。」

 アサミが涙を拭きながら、立ち上がった。そして、手を差し出した。

握手の為に。別れの為に。

 「10時に、待ってるね。」

 これ以上言葉は、出てこなかった。必要無かったのかもしれない。

 零は、静かに立ち上がりアサミを、ジッと見つめた。そして、力強くその手を握った。

暖かく、大きな手であった。

 ”零ってこんなに格好良かったんだ。キラキラしちゃって。”

 今まで見たことのない零が、そこにいた。瞳が、輝いている。

ふと、そんな零が、誇らしく思えた。

 「10年後に、必ず来る。アサミの、三十路を祝に。そして、一晩中語る。出会った、人々の事を。」

 もう言葉は、いらなかった。二人は、互いに微笑んでみせた。そしてそれが、合図でもあった。

 「行って来ます。アサミ。」

 「行ってらっしゃい。零。」

 零は、もう一度アサミの手を、力強く握った。そして、これ以上無いほどの笑顔をアサミにみせると、大きく一つうなずいてみせた。

それは、夢に向かう決意の姿であった。

そして零は、一度も振り返る事無く、雨の降る街へと出ていってしまった。アサミは、ただただその背中を見つめている。

その姿が、見えなくなっても。

 「10年、店を辞められなくなりましたね。」

 アサミが、ビックリして振り返った。そこには、優しい笑顔でマスターが立っていた。

アサミは、すっかり存在を忘れていた。

椅子に腰を下ろしながら、少し寂しげに笑ってみせる。

 「バカな女だと、思ってるでしょ?」

 静かなアサミの、問いかけであった。