そして俺は、すぐさま鍵をかけた。
そうだ、このドアには鍵が付いていた。俺は、鍵をかけていたはずだった。鬼頭は、どうやって入ってきた。
違う。俺は、思い出していた。俺が、自分自身で開けたんだ。鍵を。
俺は、もうどうなってもいいと思って開けた。何故?。
ドアをぬける前に眼にしたあの、死骸を思い出した。とたんに、はらわたがよじれる程の嘔吐が、俺を襲った。
まるで、体の中から全てを吐き出すかのような、嘔吐だった。同時に襲う、全身を襲う嫌悪感。
あの死骸は、人間であった。女の。
腕と脚は、殆ど骨だけになっていた。胸の辺りも。
頭の中の霞は、すでにとれていた。
俺は、ここに閉じこめられて頭がおかしくなっていった。そして俺は、女を犯し続けた。そのうに俺は、死にそうなぐらいのどの乾きと、空腹にみまわれた。そして俺は、・・・。
また激しい嘔吐が、俺を襲った。しかし、出てくる物は何もなかった。
そのうちに、視野が暗くなってくる。そのまま、気を失ってしまった。
どのぐらいたったのか。隣の部屋から聞こえてくる叫び声で、意識を取り戻した。
それは、鬼頭の人間のものとは思えぬ叫び声であった。発狂したか。
俺は、恐る恐る部屋の中に視線を移した。想像はできたが、それは、想像を絶していた。
かつて人であった物が、散らばっていた。殆どが、骨だ。
また、嘔吐が襲ってくる。
人間は、極限まで追いつめられると、こうもあっさりと狂えるのか。鬼頭の事ばかり、俺は言えない。
実際俺も・・・。
俺はここで、餓死するのだろうか。鬼頭の方が、少しは長生きするだろう。
向こうにはまだ、食料が有る。
俺も、完全にいかれたらしい。この状況下で、腹が減ってきている。
死ぬのはイヤだ。俺は、生きたい。人間の尊厳なんて、くそくらいだ。
「カチャ・カチャン」突然何かが落ちる音が、鳴り響いた。よろよろと俺は、音のした方へと近づいていった。
そこには、ナイフと一丁の銃が落ちていた。それを、手にしてみた。大ぶりのサバイバル・ナイフと、リボルバー・タイプの拳銃だった。弾は、一発のみ。自殺ようか。かってに死ねと、いうことか。
じゃぁ、このナイフはなんだ。どす黒い考えが、首をもたげた。
自殺?。冗談じゃない。奴をぶち殺せばいいんだ。
俺はドアまで行き、激しく叩いた。
「鬼頭。聞こえてんだろう。なぁ。決着つけようぜ。」
俺は、耳をすませた。反応がない。もう一度、ドアを叩こうとしたとたん、「パン!」と、乾いた音がした。
間違いなく、銃声だ。俺は、半狂乱になって、ドアノブを回した。こちら側の鍵は、開けてある。しかし、開かない。
いつの間にか、向こう側の鍵がかけられている。
「バカ野郎!。死ぬなら、鍵開けてから死にやがれ。こっちには、食い物無いんだぞ。」
俺は開かないドアを、狂気の如く打ちならした。返事は、無かった。
そのうちに力つき、その場にへたり込んでしまった。
「死にたくない。」
拳銃を見つめながら、呟いていた。そして俺は、そいつをこめかみ押しつけた。
ふと、後ろでドアが開いてバタンと閉まる音が響いた。同時に、「きゃっ。」と、女の声。
振り返ってみるとそこには、床に転がる女が一人いた。怯えきった眼で、キョロキョロしている。
俺と、眼が合った。その眼が、絶望へと変わった。俺は、どんな表情をしているのだろう。
そんなことは、どうでもいい。俺は、ナイフを握りなおしながら立ち上がった。
飯の時間だ。