林芙美子「めし」成瀬巳喜男監督

初之輔(上原謙)は飯を食いながら新聞から目を離さない

「めし」としか言わない夫に三千代(原節子)はやりきれない

台所と茶の間を往復する自分の人生にどんな意味があるのだろう

 

初之輔の姪である里子が家出をして東京から大阪へやってきた

家計をやりくりし家事に追われるだけの日々に疑問を持ち、不満をつのらせていた三千代は楽しそうな初之輔と里子の姿に激しい嫉妬心を起こす

 

里子の鼻血が夫のシャツに付いているのを見て

二人だけで二階にいたことを知ると美千代の嫉妬心は頂点に達する

 

三千代は里子に帰京を促し、里子を送る名目で東京の実家に里帰りし、久々にのんびりとした時間を過ごす東京での職探しをいとこに頼み自立を考えるも

悶々と考えあぐねる三千代のもとに、ある日夫の

初之輔が訪ねてくる

 

ここまでは、初之輔と美千代は真反対の方向を

向いている

二人は離婚するしかない

林芙美子は急逝したため二人の結論が離婚か復縁かはわからない

 

映画化にあたり成瀬や脚本の田中澄江・井手俊郎によって独自の結末が付与されたが、会社から結末が離婚では困ると要望され、妻が夫のもとに戻るような終り方にした

 

この結末を大衆が歓び大きな興行的成功を収めた

私が教えた頃の新宿高校の女子高生に見せて話合わせたら何と言うだろう

 

美千代は夫と仲直りし「夫はそれなりに一生懸命に生きている その生き方を私は受け入れて行かなければならない」と語って

夫に書いた離縁状をちぎって汽車の窓外に捨てる

 

これでは、一日の会話は「飯」だけである傲慢な亭主関白を肯定して、美千代は永遠に夫の奴婢で生きて行くしかないのだろうか

私が教えた女子高生も東大の女子大生も、美千代がそんな人生に追いやられることは絶対に容認できないに違いない

 

百聞は一見に如かず、まず作品を見て欲しい

原節子は美人なだけで大根役者だと言う人がいるが

若い里子と夫が仲よくするのを嫉妬する表情は

凄まじい

 

美千代が東京に家出した原因は、夫が若い娘に

うつつを抜かしていたからであることがわかる

それだけでも離婚の理由になるので、成瀬監督は妥協せずに美千代を離婚させたらよかったと思う