「秀と母」 第四章
第82話 しんどい思い
2011年2月2日
また入院生活が始まった。朝の洗濯を済ますと、すぐに病院へ向かう。病院の最寄駅は地下鉄の乗り入れもあり、地下道は朝の通勤ラッシュの時間帯で混んでいる。人混みをかき分けて歩く。地上へ出て足早に病院へ向かいながらも不安がよぎる。
――今度はどれぐらいで退院できるのだろうか・・・。
主治医のI先生は「一か月位」と言っていたが、実際はもっとかかるかもしれない。それは以前の入院生活で経験している。白血病は安定しない病なので、調整がとても難しい。せっかく元の生活に戻れたと思ったら、また再入院。一体いつになったら母は家でゆっくり過ごせるのだろう?またしばらく入院生活が続くのだろうか?
正直、しんどくなってきた。いつ頃に退院できるという目安があれば、それが希望となり、やる気も出るが・・・。先の見えない生活はとにかく不安で心に負担がかかる。でも当の本人、母が一番しんどい思いをしているはず。そう考えると、「僕らがしんどくなっている場合じゃない!」と自分に言い聞かせるが、なかなか気持ちが上がってこない。
余命宣告を受けたのが2010年10月14日。既に三か月半ほど経過している。母と家で過ごすうちに、いつの間にか「もしかしたら、お母さんは大丈夫なんじゃないか?」と思い、少し安心した一か月後に再入院した。余命半年が気になってくる。
――あと二か月半・・・。
不安になってくる。宣告を受けた半年を過ぎても大丈夫な場合があるはず。早くそれを確認したいような、でも早く時が過ぎていくということは、宣告を受けた時期が近づいてくるということでもあり、複雑な心境になる。
――またこんな不安な気持ちが続くのか・・・。
そう思うとしんどくなってくる。
母の気持ちを思うと、僕ら支える家族が気を強く持たないといけないのだが、こう何度も入院すると、母も僕らも気持ちが萎えてしまう。弱気は禁物だが、どうにも希望がないと元気が出て来ない。
――いや、それでも、とにかく僕らがお母さんに元気パワーを注入しないと!
一日も早くまた家に帰れるよう、みんなで頑張って母を支えていかないと。「気を強く保とう!」と自分に言い聞かせながら、今日も病院へ向かう。早く母の顔を見ないと落ち着かない。
病室へ入ると、母が酸素マスクをして横になっていた。
「お母さん、おはよう」
「おはよう」
「酸素マスク付けたの?」
「そう、ちょっと息が苦しかったから」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
――入院前から咳が出ていたから、治すための酸素マスクなのかな?大丈夫なら良かった。
「お母さん、熱は?」
「熱は大丈夫だよ」
「朝ご飯は?」
「ちゃんと食べられたよ」
――良かった。
一通り聞かないと安心できない。
「じゃあ、また夜に来るね。何かあれば、メモしておいてね」
「ありがとうね。気をつけてね」
「お母さん、イエーイ!」
「イエーイ!」
母と恒例のピースから親指グータッチのスキンシップ。もちろんハグもする。帰るふりしてまた顔を出す。笑う母。でもどことなく笑顔に元気がない。
病院を出てから、父と兄たちに朝の報告メールを打つ。
「今朝は酸素マスクを付けているけど、大丈夫そうだよ」
アルバイト先へ向かう電車の中。母が酸素マスクを付けていた姿が頭に浮かんで不安になったが、三日もしたら体調も回復すると思っていた。なぜなら以前のK病院の時に、酸素マスクを付けて三日後には回復したから。
今回も二、三日で回復するはず。そう思っていた。