「秀と母」 第三章
第61話 枯れた野牡丹
2011年1月10日
野牡丹
2011年1月10日
わが家の野牡丹がすべて枯れてしまった。信じられなかった。母の入院時から写真に撮って見せてきた鮮やかな野牡丹。母がようやく退院できたから見せたかった。花が好きな母に見せれば、鮮やかに咲く野牡丹の色合いの美しさに、きっと元気になってくれると信じていた。
通院から帰って来た時の母は、近所の人に姿を見られたくないことから、早く家に入りたいという感じだった。一度はゆっくりと野牡丹を見せてあげたかった。
外に出なくても父の部屋の窓を開ければ野牡丹は見られたが、この日の朝に窓を開けて愕然とした。昨日まであんなにたくさん鮮やかに咲いていたのに、一夜にしてすべて枯れてしまうとは・・・ショックだった。
こんな不思議な体験は記憶にない。僕も父も何か不吉な暗示と感じてショックを受けた。母の身に何かが起きてしまうような気がして。何よりも、そのすべて枯れてしまった野牡丹を見た母の心境を察すると切なかった。母自身が不吉な暗示と捉えたはず。本人は相当ショックだったと思う。母が可哀想になって仕方なかった。
「みっともないから全部切っちゃって」
母が動揺して、普段なら言わないような少しイラついた言い方をした。すぐに父が枯れた野牡丹の枝を切った。
また咲いてくれることを願った。幸いにも花芽がついているから、また咲くはず。でも次に咲くまでに母の命が持っているだろうか?
――もしかしたら、もう二度と見る事が出来ないかもしれない・・・。
不安がよぎる。
後に振り返ると、この年は3月11日に東日本大震災が起きて忘れられない年となった。前年の2010年12月には、わが地元の道路で季節外れのバッタを見かけるなど、何か異常現象の流れを感じていた。植物も異変を感じて、野牡丹も枯れてしまったのかもしれない。それは母の命とも何か繋がりがあるようにも感じた。
枝を切った野牡丹は、その年の夏には咲いてくれたが、母に見せることは叶わなかった。もう一度、母に見せたかった。
野牡丹は咲く。鮮やかな紫色に輝いて。
