『ラジオでごめん』 | 儂の独り言

儂の独り言

過去,現在に自分の身に起こった事,また,未来への展望について心のままに書き溜めたいと思い始めました.

興味を持たれたら少しでも覗いてみて下さい.


宜しくお願いします.




『ラジオでごめん』

貫太と口喧嘩してから1ヶ月が過ぎた.

千代はあの日から眠れない夜が続いていた.
今夜もやっぱり寝返りばかりで,眠れそうになかった.
チョッパーの抱きまくらに押しつぶされたラジオを手探りで探すと電源をつけた.

ちょうど,パーソナリティー千原せいじの元気な声が聴こえてきた.

「みんな元気にやってるか?

新型コロナで緊急事態宣言が出てるから,マスク,うがい,手洗いはしっかりやってや.

 さあ,『ラジオでごめん』のコーナー行くでぇ.

ざんげのメッセージを聞かせてや~」


それは,毎週土曜日の深夜にやってる電話でリスナーの生の声を伝える千代お気に入りの番組だ.



最初は貫太から面白いラジオやってるからと前に勧められて,それから,千代もずっと聴いていた.


「今夜の1人目はHさん〜.

今晩は」

「今晩は」


「誰に謝りたいんや?」

「両親です」


「どないしたんや?」

「今,お付き合いしてる方なんですが...」


「おぅ,その方が?」

「女性のパートナーなんです」


「うーん,そうか.同性か」

「はい」


「最近よく聞く,LGBTや」

「はい」


「両親はそのパートナーのこと知ってるんか?」

「知りません」


「...儂はな,大賛成や.

我が子がLGBTでも,賛成するわ」

「そう言って頂いて,ほんとに嬉しいです」


「たまたま,好きになったパートナーが女性やっただけのことや」

「そうなんです」


「儂も応援するでぇ」

「ありがとうございます」


「さあ,Hさん.

ご両親へざんげのメッセージをどうぞ」

「...

私は二人のお母さんの娘として,小さい頃からお母さん達の背中を見て,育ちました.

そして,大切なパートナーの方と出会いました.

私たちもお母さん達の様に,手を取り合って生きていきますので,見守っていて下さい.

今まで育ててくれてありがとうございました...」


「二人のお母さん,

どうかHさんたちのことを温かく見守ってちょうだいよ...


今夜はちょうど時間となったようやわ.

それじゃ,また,来週...」




千代はラジオの話が全く耳に入っていなかった.


これまでいつも貫太に甘えて束縛ばかりしてきた.

わがままばかりで自分の事しか考えてこなかった.

お互いを認め合って,信じて,これからも一緒に歩んでいきたい.


そうだ!


この『ラジオでごめん』のコーナーに申し込んで,それでもダメだったら...

貫太と別れよう.

そうしないときっと後悔する...





あれから,また,1ヶ月が過ぎた.


千代は,ハガキが採用され,

今夜,番組からスマホに電話が掛かって来る.


二人目の予定だ.


話す内容を書き込んだメモを声が枯れるほど読み返した.


千代はラジオの前でスマホとメモを握りしめて,時間が来るのをじっと待っていた.


そして,ついに放送が始まった.


「あぁ,ゴメンよ!こんな声で!

昨日から熱っぽいんや.

あかん,フラフラしてきた.

でも,みんなが待ってくれてるから...

さあ,『ラジオでごめん』のコーナー行くでぇ.

ざんげのメッセージを聞かせてや~」


「今夜の1人目はK君〜.

今晩は」

「今晩は」


「誰に謝りたいんや?」

「幼なじみのTさんです」

「どないしたんや?」

「Tさんの存在の大きさがわかったっていうか...


「なんで離れてたんや?」

「他に好きな子ができたとかじゃなくて,自分の気持ちを確かめたかったから...


「それで,君はこれからどうしたいんや」

「いままでの様に話したり笑ったり,少しでも一緒の時間を過ごして行けたらって...



「その思いがTさんに届くとええな!」

「はい」


「さあ,K君.

Tさんへざんげのメッセージをどうぞ~」


冷たくしてゴメン.ずっと一緒だったから,少し離れて自分の気持ちを確かめたかっただけなんだ...これからもずっと一緒の時間を過ごしていこう」


「はい,Y君,いつまでもTさんと仲良うやってや」


ヤバっ!涙を手で拭うけど,

次から次から溢れてきて,

メモに書いた字が揺れて見えない.


「今夜の二人目はTさん,

今晩は」...