“ラテのお客様。ご用意できました”店員の声が届いた。

ふと目が覚めた。

気持ちのよいBGMで寝ていたようだ。

携帯から声が聞こえる。

耳を充ててみた。

「あ、そうそう、いい忘れたんだけど、ギターもってきてよ。久々、中野君の歌が聞きたいわ~」

「え?」

「え?て。だからOB会の話の続きで」

今までの物語はすべて夢だったのだろうか。

坂本に電話をかけてみた。

「あれ?中野?元気か?そうそうフォーク部のOB会があるらしいけど聞いたか?」

「お前、坂本やんなあ?」

「はあ?どないしたんや。当たり前やろ。ははは」

「プログラムのことを俺に話したよなあ?」

「プログラム?OB会の?」

「じゃなくて、その、脳の」

「脳?お前なんか変やぞ。じゃまたOB会で」

この光景もまたプログラムなのか。

いや、もうそんなことはどうでも良い。

大事なことは今だ。

今を変えれば、次々にやってくる今を変えることができる。

そして今を確実に生きていけば過去も変えることができる。

過去は今の脳に記憶として残っているのだから。

俺が過去2回通過した介護に明け暮れた毎日。

同じ行動だったのかもしれない。

しかし、一つ一つの行動に責任をとりながら、自分が選んだという認識をしっかりと持ち、行動した人生にはもう後悔はない。

彼は目覚めた。

「よく頑張ったね」

そこには白髪の老人が立っていた。

自分は雲の上に立っている。

そして、あたりを見渡すと、星のようなキラキラしたものが、一瞬で離れ、一瞬で帰ってくる。

そして、また帰ってきたその星にも、その老人は「よく頑張ったね」と言っている。

彼は気付いた。

一瞬で行き来し合うその星はそれぞれの人生を生き、そして帰ってきたのだ。

自分の84年の生涯は一瞬のうちに終わったのだ。

幾つもの脳が宇宙に浮かんでいた。

今度は後悔している3年後から今に来たという明確な記憶があった。

このまま介護を続ければ後悔している自分にたどり着くことは知っている。

しかし老いた母を放ってはおけず、やはり知らないうちにまた3年が経過していた。

坂本に三たび送信した。

「また戻してくれ。今度は迷わない。必ずアメリカに行く。」

「またか。もう一度、3年前に戻しても、3年後の今日また後悔しているだろう。」

「教えてくれ。最初、お前が俺の前に現れた時は俺はどの道を選んでたのだ?親を取ったのか、自分の夢を取ったのか。それを知ればもう過ちは繰り返さない」

「それは今、お前の頭に中にある過去を見ればわかる」

「過去を見れば?過去はもういい。俺は未来のことを考えているのだ」

「前にも言っただろう。脳は考えた結果を自らに映している。それは、その時その時だ。未来なんてものはない。10年先も20年先もその時が来れば、その時点でその時の今を生きている。過去の記憶も今、感じている。つまり永遠に今を生きているのだよ。一つ言っておいてやろう。お前の歩く道は正解でも失敗でもない。そんなものは勝手に他人がほざいているだけ。どんな人生なんかは関係ないのだよ。問題は出来事にどう立ち向かうかが大きな問題なんや。よく考えろ。考えてから移した行動には正解も間違いもない。どちらにしても責任を取ることだ。どちらも肯定的に考えていたなら、必ず進化するプログラムが与えられる。決して後悔なんかせずにね。」

そういえば、アメリカには本当に行きたいのだろうか?現実から逃げたいだけなのでないか。現実はある。必ず脳に映っている。

放棄と逃げることは違う。明確な意志がない。

では放棄できるのであろうか。

過去の思い出といえば、喘息で苦しんでいる自分の背中を朝までさすってくれた母、借金してまで自分を大学院にまで進学させてくれた父。

彼は介護という現実を受け入れる道を選んだ。

そして介護に明け暮れた。自分が選んだ道だということに責任を取って。

そして3年が経過した。

その時、彼は人生の岐路に立たされていた。

母親の介護を選ぶか、母を施設に預けて渡米するか。

彼は迷いながら介護を続けていた。

来る日も来る日も、母親の介護と看病。そしてやりがいのない仕事。

ただいつもの毎日が過ぎて行った。

来る日も来る日も、介護に明け暮れた。

毎日毎日、やりがいのない業務にうんざりしていた。

いつか、アメリカに行こう。そして医療翻訳者の夢を実現させよう。

そういっては自分を慰めながら。

しかし、だんだんと介護に対して嫌気が差してきていた。

こんなにも自分を犠牲にしなければならないのか。

白髪も目立ち始め、体力の衰えが顕著になってきた。

50歳前という年齢は再就職にも影響し始める。今更、転職も難しい。

といって起業も容易ではないことはわかっている。

彼は後悔し始めた。

人生は一度しかない。だったら自分の夢を掴むことが先決ではなかったのか。

そう考えても、結局行動できなかった。

夢への一歩を感じられないまま、時は過ぎていった。

ある夜、彼は行動に出た。

坂本にメールを打ったのだ。

「なあ、阪本。もしプログラムを変えることができたら、つまり過去の場面をもう一度見せてくれたら、っていうか過去に戻ることができないだろうか?プログラムの真実を知った今、やはりどうしてもやりたいことがある。脳が生かされている時間に限りがあるんだよなあ。だったら3年前に戻してくれないか?俺は3年前に戻ってアメリカに行く。そして自分の夢に向かって前進したい。それが脳の進化ではないのか。今の生活では親の犠牲になっているだけだ。そしてやりたくもない仕事をしている。これは自分を傷つけているだけだ。」

「やはり、そうきたか。実はなあ、俺がお前の前に現れたのは、実は3年後なんだよ。で、その時も今のように後悔しているから過去に戻してほしいと俺に頼んだんだよ。

で、プログラムを戻した。つまりだ。お前は今やり直せる位置にいるんだ。

ではもう一度さらに3年前のお前にプログラムを変更するわ。