10月9日・11:47分、剱沢小屋に着く
浄土山も、雄山も、大汝山も、別山もすべて穏やかな表情を見せたのに対し、剱岳だけが奥まった一角で肩をいからし近づくものを威嚇しているようであった。鑢で磨き上げられて様な鋭い岩峰であった
柴崎芳太郎は、佐伯永作に見せてもらった立山曼荼羅を思い浮かべた。剱岳だけを、死の山と解釈したのも納得がゆくような気がした
南方、剱沢野営場には陽が降り注ぎテントが張られていた宮本金作が、「剱岳へ行く道は三つあります。①雄山に登って、頂上の神社の裏から尾根伝いの道を大汝山、真砂岳と通って行き、別山のあたりから剱沢へ下りて、剱岳の東面から取りつく。②雷鳥沢から剱御前へ登って、そこから尾根伝いに剱岳へ向かう。③室堂乗越を越え、立山川沿いに下って、剱岳から西に長く張り出している尾根に取りついて登る道。それぞれ七合目か八合目まで行けたとしても、あとが登れない。それは遠くから見ても分かるように、絶壁に囲まれているからです」、暗闇の中で指し示しながら云った
剱岳と云って指した方向には北極星が輝いていた
柴崎芳太郎は室堂乗越えの峠に立ち、望遠鏡とスケッチブックを出し写し取った
頂上のすぐ下にある2つの尖った岩の名は?、と長次郎に訊くと「カニノハサミ」とよんでいます、と答えた
剱岳は立山霊山の一つではあるが、登れない山、登ってはならない山になっており、別山の遥拝所で拝んで帰ることになっていた柴崎はその別山の頂上から望遠鏡で剱岳を観察しスケッチした。険阻な岩峰に囲まれていて、容易に登れそうもなかった。望遠鏡のピントを頂上に合わせて仔細に観察すればするほどその険しさが目に付いた
どれか一つの尾根を目の中に入れて、それを伝って登ろうと考えてみても、天を睨んだ鋸の歯のように分離されているその岩の歯一枚一枚渡って行くことは出来そうもなかった
剱岳と前剱
柴崎は詳しくスケッチした
4人は道中、玉殿で行をしている一人の行者と出会った。行者が歩けなくなったので長次郎がロープで背負い芦倉寺まで降ろした
剱岳点の記参照
手のひらからこぼれ落ちてく感触を残して消えた約束のつぶ・・・沙羅








