★「苦い金」?いや、幸せな「金」だったのだと思う  羽生結弦の困ったような笑顔に思ったこと | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。


日本中が羽生結弦(ゆづる)の金メダルを期待していた。
が、最初の4回転ジャンプで転倒!
テレビを観ているこちら側が「あっ」と声を上げた。


日本時間の午前3時半過ぎ、
羽生は滑走前に祈るようないつものしぐさをした。
『がんばって……』思わず小さな声でつぶやいた。
その直後のジャンプ失敗なのである。


動揺した、観るのがコワくなった。
他の選手、楽々と4回転を決める者が何人もいる。
『羽生の安定感は抜群だ』と思っていた。
なにより腕が、手が、指が生きもののようで、
動きのたびごとにムチのようにしなる。
『美しい!』
他の選手が無骨に見えるようなしなやかさだ。


それが、固い。
トリプルフリップでも両手をついた!!
驚いた、ほんとうに。
そしてため息が出た。
トップが消えた瞬間だ……、と思った。


以後の演技は見事にまとめた。
終わって結弦が膝まづく。
(演技の一環だけど……)
敗北をかみしめているように見えた。



いたたまれず、僕は2階の寝室に向かった。
直後のパトリック・チャンの演技を観たくなかった。
“完ぺき”に決めるに決まっている。
テレビ観戦者の僕は、その場ではまだ敗北をかみしめたくはなかったのだ。


だから朝、目覚めてiPhoneで「羽生結弦が金メダル」
の文字を見て、「ふーん」と奇妙な気持ちになった。
『チャンも失敗しちゃったのか……』
もちろんビデオを観た。
最初の4回転は見事に決めたのに、それ以降に目立ったミスが4回も。


「オリンピックは魔物ですね」といったのは、
ショート11位から5位に食い込んだ町田樹だった。
熱演だったが4回転で倒れるなど、「不本意」の思いがうかがえる。


羽生も「自分の演技が……」という。
リンクを去る彼の瞬間をテレビから切り撮った。
何ともいえない表情をしている。
「無念」の思いが渦巻いているのかもしれない。
が、もちろん、彼が手にするのは輝かしい金メダルである。


オリンピックを7回も中継したという元?アナウンサーが言っていた。
この大会に参集した日本の10代の“天才たち”について。
「初めてのオリンピックは成功で始まる人もいるし、失敗に終わる人もいる。
でも誰も、そこからがほんとうのスタートなんです」と。


さすがに勝負のアヤを長く視てきた人の言葉だと思う。
競技には運不運が付きまとう。
スキーモーグル、上村愛子の5回目は悲劇を観るようだった。
私には、判定に泣かされた結果に見えた。


日本中の期待を一身に背負わされた感のある高梨沙羅の初陣は、
折からの「追い風」に吹き散らされた。
もう一人のサラがいる。
米国のサラ・ヘンドリクソンの五輪初挑戦は21位に沈んだ。
日本では話題にする人も少ないが、胸を打つ。


同じ五輪で一躍脚光を浴びる人たちもいる。
「運が左右」というにはあまりに偉大なアスリートたち。
勝者も、敗れ去った者たちもまた。
頂点の戦いに挑めただけでもすごい。
そのための努力も、常人の僕にはわからない。
わからないが、過酷な日々であろうことだけは想像できる。


だから『もう一度』と思うのだろう。
<このまま終われない>
「そこからがスタート」とアナウンサーがいう意味はそれだ。
でも、修羅の道だろうなと思う。
報われる人はごく少数だから。


女子フィギュアの浅田真央は満願成就するのだろうか。
したらすごい。
しなくても、すごさは変わらない。
でも、できれば成功のストーリーを観たい。
一人くらい夢が“かなう”ドラマを観たい。


“敗れざる者”たちの思い結実の確率はほんとうに低いのだから。
安藤美姫や織田信成、小塚崇彦たち……。
彼らには戦う舞台さえつかむことがなかった。
過ぎ去った年月とどう折り合いをつけるのか、
成功願望を断念する明日以降の日々をどう生きぬくのか、
とても気になる。
僕自身、敗れ、追われて、再起を夢見ている者だから。


そんな思いで羽生結弦の金メダル獲得を見ると、
すなおに「輝かしい金」なのだと思える。
自分の演技に納得できない金でも、
共に崩れた結果の転がり込んだ頂点だったとしても。
君の成し遂げたことは日本人男子初の偉業!


圧勝よりも、すがすがしい「金」に思える。


(ジャーナリスト 石川秀樹)


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