◆◆人生は、記憶されるに足るもの 「1人1冊」あなたの本をつくるのが夢 | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。

新聞社にいたから、よく印刷局に刷り出したばかりの新聞を取りに行った。
うなる輪転機の音より、記憶に残っているのは「紙のにおい」だ。
輪転室には見えない紙粉(しふん)が舞っているらしい。
インクのにおいに混じって、懐かしい独特なにおいが鼻をくすぐる。
自分が付けた見出しをそこで確認すると、なんだかホッとした。


編集局から出版部門に移っても、紙とのつきあいは続いた。
手掛けた本の「見本」が印刷会社から届く。
折癖もついていない表紙をめくるのはワクワクする瞬間だ。
開けるとかすかに(新聞ほど強くはないが)やはり紙のにおいがする。


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本は構造自体が新聞より頑健である。
表紙があり、表側はカバーで覆われ、内側は見返しの紙。
見返しの紙には遊びが1枚入って、その内側に扉(タイトル)がある。さらに
まえがき、目次があって、その後ろにまたタイトルがあり、ようやく本文。


並製本と言われる簡易な本でもこの“お化粧”は省略されない。
だから本は美しい。
機能美とも言えるが、中身を大切にくるむその様式がいい。


本は「特別なもの」、本当にト・ク・ベ・ツだ。
ある日、思い出して本棚に手をやる。
何十年ぶりかに引っ張り出した本はシミのにおいがする。
紙は少々、黄変しているかもしれない。
それでも読み始めると、懐かしい時代が帰ってくる。
こんな商品、めったにあるものではない。
書棚はもう1つの「脳」知識の倉庫であるし、思い出の貯蔵庫でもある。


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本は特別なもの。
しかし、出版局長を務めていて気がついた。
特別な存在ではあるが、「本にすること」自体は難しくない、と。
本が特別であるのは、人の思いがそこに詰まっているからだ。
それが、思いを形にすること(本という形)までを難しく思わせている。


確かにかつて、本は特別な人が書くものだった。
ブログやソーシャルメディアが普及した今も、本はお高く止まっているように見え
『敷居が高い』と感じる人も少なくないようだ。
一方、書店サイドからは「似たような本ばかりが増えて」と、
「特別」どころか、「いい加減にしてくれ」との声さえ聞こえる。
1日300冊!書店に出回る本の数だ。
出版社側から言えば、本はもはや「特別」どころか、
当座の売り上げを確保するための“道具”と化しているのかもしれない。


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団塊創業塾である女性に出会った(仮に「Aさん」と呼ぶ)。
2次会の最後に「本を出したい」と僕を呼び止めた。
脳梗塞で車いす生活になったお父さんとのことを書きたいと言う。
「自費出版にいくら掛かりますか?」
うーん……。これは難しい質問だった。
オンデマンドのような数十の部数なら数万円でもできるし、
きちんとした製本で何百冊、千冊単位なら数十万円掛かるかもしれない。


結局「いくらでも、できますよ」と、答えた。
印刷・製本代はピンもあればキリもある。
その中で最高のものを作ってあげたいと思ったからだ。


後日、原稿の一部がメールで送られてきた。
達者な文章ではなかったが、心を打つ話が何個所もあった。
それで、本の原稿になるようリライトしてみた。
見違えるような文章になった。
『思いはこう伝えるんだよ』という気負いが、その時の僕にはあったのだろう。
彼女は感心してくれた。
でも、きっと大きなお世話をしてしまったのだと思う。
その後、Aさんのペースがすっかり落ちてしまった。


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本を「特別の存在」と思うのは、今やアマチュア側に多い。
それだけ本は大切な、大切な存在
それが分かるから、Aさんの思いを受け止めようとしたわけだが、
僕のやった“仕事”は空回りしてしまった。
さらに、1冊のちゃんとした本にするべく、
Aさんに、もっと「書きこむ」よう勧め、自分史年表までつくらせた。
それですっかり行き詰まってしまったようだ。


「ちゃんとした本」とはなんだろう。
200ページも字を連ねることなのか。
数ページでも、数十ページでも、伝えたいものがあれば本は成立する。
「人の思いをつなぐ」「日本一良心的な」と言いながら、
僕は気の利かない野暮な編集者であり、
せっかくのAさんの思いを意気阻喪させてしまった。
もっと軽やかに本は作れるし、在っていいのに、
僕自身が妙に気負いこんで「特別なもの」にしてしまった。


ソーシャルメディアの時代は、本を残したい人をたくさん生みだすだろう。
それはとてもうれしい変化だ。
古今東西見渡しても、ふつうの人の日々の思いが綴られ、
蓄積され、それをまた読む人がいるという状況は考えられなかった。
奇跡のように稀(まれ)で、幸運な時代!


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きのう母が、腰骨の上にできた褥瘡(じょくそう)を治療するため入院した。
療養型病棟の4人部屋。
同室の2人は径管栄養で生きながらえている様子で、表情がない。
一方、あと1人は100歳の女性だが全く違った
自分で車いすを操り、食事も介助なしで完食する。
サイドの棚には歌集が何冊か置いてあった。
『歌を詠まれるんだ……』
この人が「いま」を書くことができたら、素晴らしいだろうなと思った。
(口述筆記という手もある!)


「本を書く」という敷居を取っ払ってしまえば、素材となる人は満ち満ちている。
のこしておきたい思い、言葉、経験、調査や研究……。
一人ひとりの中にあるそれらは、本にする価値のある事どもだと思う。


本は特別だが、本は一所懸命生きる人すべてに書くべき資格がある
僕は以前、思っていた。
「死すべき存在である人間が何かを遺すなんぞ、おこがましい」と。
しかし歳を重ね、少し大人になって、考え方が変わった。
それぞれに華(はな)がある。
それは十分に記憶されるに足るものだ、と。


それらが本の形になればいいなと思う。
そのためのお手伝いが出来るなら、幸せだ。
それが3月16日、ミーツ出版株式会社を創業した第一番の目的である。

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◆本を出版したい方のご相談に乗ります
ミーツ出版株式会社 石川秀樹(hidekidos)
電話 054-374-1430




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