天冠山題詠(趙孟頫)の口語訳

天冠山題詠(趙孟頫)の口語訳

てんかんざんだいえい(ちょうもうふ)のこうごやく

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勑書(君主の命により作った書)

 

二儀日月(この世界には、天と地そして太陽と月がある)

雲露巌霜 (自然界では雲が出来、露となり岩に染み霜となる)

夫貞婦潔(夫婦はお互い、貞操を守っているものである)

君聖臣良(君主は道徳を守り、臣下は誠実に仕えるものである)

 

尊卑旧(常)別(尊いこと、卑しい事は常に区別されている)

禮義矜荘(礼節と儀礼は大切で、心掛け無くてはいけない)

存而相欣(人に礼儀があれば、お互い良い関係になれる)

離慼悲傷(礼儀がないとお互いを傷つけ、悲しむものである)

 

岫號藝機 (岩穴から出る轟音はその時世で変わる)

解此勑 (私はこの勅書(君子の詞)を解説してゆく)

豈毀飡飯(私が食事をとっている暇があろうか)

研咲徘徊(方々の友と語らい真実を確認する時も)

 

員潔落葉 (人民が落ち葉を掃き浄める、その間も)

稷税稼穡(人民はきび穀類を栽培し、国に治めるものを収穫する)

困  ((私はこれらの事はある時も、勅書の事を考え)困ったものだ) 

唐虞襌讓(陶唐が有能な有慮に君子の座を譲ったことがある)

率賓歸徳(これは人民を治める君主の徳によるものである)

 

飛龍在田    ((平和な時には神聖な)龍が田畑に飛び交っている)

圖書見己迩多世 (昔から既に、このことは書籍に記され周知のことである)

杜稾(路)席  (杜度(人名)や路温舒(人名)は竹簡に記している)

俶理誰逼      (誰に言われたことなく、その記述が生まれた)

 

委翳渠荷      (草木は朽ちても、ハスの花は開花する)

射      (現実に照らしてみると)

牒施脩薪   (国家の施策(通知)によって国は治められている)

孔立升堂      (孔子の理論(儒教)が出来、それが国家に採用された)

 

墳典之盛 (昔の書籍が山のようにある)

李林梧桐 (多くの気品のある方々が意見を交わしている)

新孰表正 (新しいことは旧来のことから正誤が示される)

學優卿建 (學を修め優となれば君主に仕え身を立てられる)

 

紙墨左令 (墨で記された法令の公文書がある)

詳顧籍甚 (この公文は非常に詳細に吟味されている)

母嫡後稽 (本妻とその嫡子が実子であるか否かのように)

仁連比堅 (人徳の厚い人物は意思が堅固である)

 

顛神犢特 (本来の神は子牛か雄牛を伴わせることもある)

睦以受伯叔(年長者とは親交を深め敬う)

丸  (呂布(人名)と嵆康(人名)と称す者がいた)

疲移爵取 (巷には覇業を求める者がおり辟易としている)

 

宇宙玄黄 (天地は青黒く、地は黄色である)

歳盈餘昃 (人(私)は年を重ね晩年となる)

列宿調陽 (星は天に輝き太陽は大地を照らす)

崗珠剣 (崑崙山の尾根は剣のように美しい)

 

垂蒙瞻眺(尾根の草木は垂れ下り良い眺めである)

務昆聆貽(必ずよわいを重ねた人(兄分)に継承するものは何かを尋ねる)

工指抗故(役人は旧式のことは拒むものである)

厥貢嶽云(それは山(嶽)や雲(云)を次世代へ貢ぐことと同様である)

 

百鶏治刻(多くの鳥が鳴き声で時刻を管理している)

畫綵丹青(絵(畫)には赤や青など多くの色彩がある)

漢宮稱軄((官僚は)漢の朝廷からの役職を称され仕事(職)にある)

盡忠景行(忠義を尽くすことはりっぱな行いである)

 

名傅秉直(名だたる優秀な補佐役(官僚・伝承者)は正直で心に偽りがない)

詩讃白駒(この補佐役たちは「白駒」(詩経の有名な詩)よりも良い詩が書ける)

羣賢轉植(聖賢たる補佐役達は(良い詩が出来た時は)皆に公開し知らしめる)

魏假蜜踐(魏の国は漢の時代のものを頻繁に使っている)

 

途惟靡恃((漢時代のものを使うこと)この方法に頼るのは良くない事である)

拱平章 (官僚が公明平等な政治を行うことである)

男女行端(誰でも(男女)人は徳業を行うものである)

谷聲虚積(漢の時代の借り物(制度)などを積重ねても無駄との指摘もある)

 

容止温清(私情とやさしさを排除すべきである)

言辭宜政(口に出す言葉は政治に関することが良い)

慎増情性(これには感情的になる事は慎むことである)

恬(糟)糠(酒は)又は(粗末な食事)

帷房悦豫(自宅で内〃に楽しむことが良い)

 

接酒矯杯(酒を準備し乾杯する)

侍巾績御(宮中の侍者(世話人)は私を上手に世話してくれる)

再拜烝嘗(先祖供養にも丁寧に礼を尽くしている)

旋璣暉郎(北斗の七星の内の2星は都の役人に役立っている(輝かせている))

 

魄曜懼騾(北極星にはラバ(動物)でさえ畏怖するものがある)

的歴陳根(このことは世に根着いていることである)

斡淩嚢具象(世の知識人(官僚)は現実的なことをまとめている)

願熱獲捕(現実的な施策を集め解決することを熱望する)

 

莽抽早異(雑草は早めにぬいておくべきである)

享辱墻 (壁で回りを囲まれていることは良いことである)

續條守真(正しい規範を継続することが人の本性を貫くことである)

驚寫傍啓(その規範の記述が民衆を啓蒙することに驚かされる)

 

隠華千輦(沢山の華やかな御車が見えないように置いてある)

鉅勿乂牧(優秀な刺史(地方長官)でもすぐには地域を治められない)

用紫翫殆(権力(紫)を過信してしまうと危ういのである)

枇杷駭躍(金色の枇杷(権力)には皆が飛び上がるほど驚くものである)

 

超驤且顙(その様は狂喜したり平身低頭、額(ぬか)ずいたりする)

執夕周發(天子への夕礼は決まった時刻に行うよう管理されているもの)

巌使維頼(官僚がきびしいことを言い、故意に夕礼を遅らせている)

彼罔慕桓(その夕礼が滞り、進まないのは不誠実である)

 

振將家更(将軍の家系(職)を引き継ぐことは推奨することである)

土虢韓煩(虢(タク)という国と韓という国は領土のことで揉め乱れていた)

萬目晝眠(多くの民が昼間に眠ることができるのは)

老少散慮(誰もが、辛いことや苦しいことが無いからである)

 

呂髪和同(呂不韋(秦の宰相)は、髪で契るように官僚達と親交を深める)

殿丙公戚(南向きの大きな宮殿は官僚(文武百官)の威厳を示すものだ)

市寐綸巧(天子の治世が巧であれば街(市)は平和(安心して寝る)である)

佳俗利兩(平和な世(俗)では両者(朝廷と民衆)を利する)

 

疏叛亭杳冥(朝廷に叛くことは、暗い世となる)

吉劭隷 (平和であることは、君主に従順であることである)

漆浴驅轂(軍隊車両が漆川の水を蹴散らして移動している)

内岱敢達(軍隊は敢えて泰山に進軍している)

 

疑皆毛簡(木簡の記述は、その詳細を疑うべきである)

答於侠陪(しかし、従順な官吏は木簡の記述に応じている)

骸垢冠高(官吏は高い(立派な)冠を着けているが、垢と骨だらけである)

茲阮天嘯(この官吏は、空に向かって阮(楽器)を唸るように吹いている)

 

牋愚  (愚かにも、無力な天子に上奏文をあげている)

秋地冬馳(秋には地から実りを得、冬には獲物を追い駆ける)

麗桓惠 (宿泊地への案内(桓表)には恵まれている)

衣裳水鳥(そこには水鳥模様の衣裳がある) 

本弊頗 (おおもと根幹(後漢)が衰退すると不公平な政治が行われる)

 

勒碑實磎磻 (磻磎川の渓谷の岩に真実を刻んである)

夜封戸璧(壁)(夜には戸締りをして外界との壁とする)

藍笋矩歩(竹席(細竹製の敷布)の寝床まで歩いてゆく)

孤陋嘉猷(官僚(百官)の中で孤立しても国を治める優れた計画を作っている)

 

持物心動(民(世間)を助け治めることが重要である)

甲帳對楹((漢武帝が作った)煌びやかな帳幕(とばり)のような家々が向き合って軒を連ねている)

樓觀磐鬱(たかどの(二階建て茶屋遊女屋)の大店が大岩の如く連なっている)

吹笙鼓瑟(そこでは笙を吹き、琴を鼓(コす・演奏)している

 

伊尹阿衡(商殷の建国に貢献した伊尹(いいん)は宰相に任ぜられた)

鴈門綿邈(雁門地域(雁門山)は遥か遠くにある)

史魚孟軻(死して君主を諫めた史魚、性善説を唱えた儒家孟子がいた)

省躬銀素(金銭(銀貨)と美衣(白絹衣)に(まみ)れている事を省みるべし)

 

垣箱譏誡(城壁内の役所では城下の人民を諫め正しい方向に導ている)

迴傾丁晉(内紛(傾く、陰謀)は積極的に止めるべきである)

属耳楚幸(楚国のこと(平和)に耳を傾けてみる(楚は秦により滅んだ))

即輶嗣 (即ち楚国の天子は軽率(無力)な世継ぎであった)

 

驢悚石碣(石碑は驢馬の如く風雪に耐え、これを伝えている)

沙漠宣威(名将の軍功は砂漠の地(匈奴)まで威嚇(勇名)を轟かせた)

我尋求古(私は、いにしえ(武力で匈奴を制した漢時代)に思いを馳せる)

寥沉默逍遥(静かに独り、沸々と思いを巡らせている)

 

讀易口飫(易学書を飽きるほど読み込んでいる)

論車策頓(朝廷内では百家争鳴で意見のまとまりが無く頓挫している)

盗宰手賊(中には宰相(大臣)の地位を奪い、悪者(賊)を配下とし)

釋躭招絳(詭弁をもって享楽に耽り仲間(賊)を絳(普の都)に招いている)

 

煒寵南寧(その仲間を寵愛(偏愛)し、優遇していた)

納駕肥惻(彼らは高級な馬付車を受け取っている、益々心が痛む)

陛似息履薄(天子のように、朝廷内は薄氷を踏む危険な雰囲気である)

改環催  (このような事は改めなくてはならない)

 

造次箴規(速やかに戒め正すことである)

甘棠去唱(かつてのヤマナシの木の逸話(周の召公が休んだ木を大切にした)

      は、今は忘れ去られている)

上奉諸姑(親族身内の女性たちが天子に意見している)

始匪虧外(行ってはならない事をしている者達を排除し始めるべきだ)

 

隨都邑 (国民は朝廷に従うものである)

寸陰終時(時は一瞬にして過ぎ)

過所定来(過ち国難は定めたように巻き起こる)

薑得羔羊(天子に激しく意見する者達は、国民(羔羊)を味方にしている)

 

淡師  (人民には深く考えない人が多くいる)

鱗潛鴻大(魚は水底に潜み、大鳥(雁)は大きく羽ばたく)

位樹習寳(朝廷で官位に沿って並ぶのは、尊い慣わしである)

興當禍空(今はこれに従うのは空しい、禍でもある(権力が天子にない))

 

念絲覆染(少し考えただけでも、悪しき習慣に染まっている)

剋日作事(朝廷の施策(行事)の実施には期限がある)

是聽福縁(正しい事とするには、幸(福)ある意見を聴くことである)

因登人磨(これによ(因)り、立派な人(学問を磨いた)が登用される)

 

分投廉退(役職を人に与えて謙虚に退くことである)

縻自肆懐(役職に就いていた頃の思い(繋がり)を存分に懐かしむことである)

纓銘翠遵(冠の後ろ紐に記されていることでもカワセミ(鳥)は従っている)

州約晩祇彫(村里に神仏が飾られていても意味がない(強権政治下だから))

 

菓珎難量(珍しい果実の価値は判りにくい)

夙若竟右(まるで太陽が西から昇っているようだ)

既集如初(建国の頃(初め)には多くの人が集まっていた)

亦聚  (そして、多くの人が集まって来た)

弔民興兵(多くの哀れな人民のために戦い(兵)が行われた)

 

洛極化無 (洛陽の都は全く変わっていない)

不及充四塞(四方が山と川に囲まれ害が及ばない)

宗廟效靈 (国家は君主の祖先の祭り(礼拝)に力を尽くしている)

遐荒竭力 (国は地の果ての(未開地)でも力を尽くしている)

 

明王壹擧 (賢明で立派な君主は一時(いちどき)に事を為す)

八方仰則 (全ての事案は法の支配により治められている)

誅斬非道 (人の道に反する者は、懲らしめられる)

勸賞黜陟 (民には納税の功で褒め、官吏は功績で昇格、降格させる)

 

有功必美(国家に対し功績のある人には良い(美しい)ことがある)

亡善可逐(道徳にかなった行いは失われても求め続けられるものである)

藏足爲奈(自分の足(能力才能)を隠し他人に迷惑をかけずに生きる)

結乃愛首(即ち、始まり(最初)が大切である)

 

被場菜罪(他人の悪行(罪)を自分が受(冤罪)けることになる)

代萬海鹹(これは広大な海の塩を数えるほど大変なことである)

騰京背壁(城(砦)を出て都に馳せる)

芒推面字(早書きで草案をつくった)

 

夏陶西問(夏の時代は人を育てるため、西方域を訪れている)

筵黎伏據(たくさんの座席(筵、制度)が用意されている)

戎仙羌階(戎の国では高尚な人がいて、羌の国には立派な建物がある)

盖府身縣(国が各地域(府)を統治し、その中を各県(縣)で治めている)

 

侈虎軍國(奢れる虎(覇者)が軍隊と国を支配している)

精志引要(清く正しい考えを取り入れるべきである)

文武斯妙(文官と武官には、素晴らしい人材がいる)

五經星辰(儒教の五つの経典と自然(天地)の動きに従うことである)

 

下照渭殊流(下(民衆)を輝かしている渭水(川)は、特別である)

河川交暎(黄河は川が集まって大河となっている)

富貴猶欲((人は)財産や地位があっても、更に欲するものである)

短長從命(財産や地位の)優劣があっても天命には従う)

 

賤惡并輕(軽率な行いなどは、憎むべきことである)

好謙敬能知(能力や知識を控えて、慎むことが好まれる)

任運官禄(運命により朝廷から俸禄を受けている)

静競遊鵾((人は)争わずに、軍鶏の争いを楽しむことである)

 

居謝攸畏(居ながら(何もせず)に凋落する事に憂い畏れる)

腸適厭 (紆余曲折(経過が複雑、もめ事)な事は伏せられている)

燭祭煌祀(祭りのともし火は、その時代を輝かせている)

床弦康紛(床の間(室)で琴を弾くと乱れた心が安らぐ)

 

姿淑毎嚬(容姿美しき婦人には、眉をひそめる)

羲矢祐綏(伏羲(ふくぎ・古代伝説上の帝王)は民を助け安らかにする)

寡廊恬等(回廊が少ないと、落ち着いた状態でいられる)

聞鈞誚芥(重要な事はよく聞き、小さな誤りも正す(責める))

 

出制    (天子による制度(詔)が発せられる)

體歡鞠養(民衆は喜ぶ振りをして詔を守っている)

基攝益兒(もともと天子は代理とされている、子供騙し)

奄弗切満(その詔は、大事なことを全く満たしていない)

 

槐雨浮鍾(三公(天子を支える三官僚)の恩恵は釣鐘のように頼りない)

舍羅思遣(この状況を網で覆い憂いを追い払っている)

親張紈涼(薄い練絹の衣を来ているようで不安である)

晦領俯 (晦日(月末は新月で暗い)には首を潜めている)

束帶横扶(正装の時(朝廷に参内時)は横の両隣の者が頼りである)

 

節翦微旦(法(節度)が少しずつ日毎に滅んでゆく(守られない))

臨何濟合(この違法の行いをする者達(荷う)を征伐する)

曲宅阜澄(奥の部屋(宅)には正義に澄んだ官僚たちがいる)

深忘慶設(日常の事は深く考えず、今は慣例の吉事を催すことだ)

 

廣弁趙霸(春秋戦国の趙の君主には礼節があった事が広く知られている)

近恥其勉(側近の行いが恥と思えば、礼節に努めるべきである)

累奏赤跡(過去には、累々と天子に上奏したものである)

鑑貌辨色(文武百官は、権力者の顔色を覗い事案を判断している)

 

并坐信起(二人で罪を被る(両罰)制度は、不正がなく誠実に事案が実現する)

収給資粮(国から禄(給料)を喰(は)み生活の礎にしている)

恐年颻 (今は恐ろしい時代で情勢は激動している)

扇琴讌觴(扇であおぎ琴を奏で、酒を飲み交わし語り合っている)

 

蘭草巨木(宮城付近の野辺には、蘭の草が生え巨木が林立している)

筆懸闕 (文武百官(行政官)の筆は、宮城の門に掛ったままである)

暑往寒重(暑い(平和)時は過ぎ、寒き季節(戦乱)が度重なっている)

永載成閏(長い間、正統でない天子が即位している)

 

つづく