「ステレオタイプなものの見方ってスバラシイ」
これは、昨年出版された、あるライフハック本の帯の言葉である。

このコトバは、hackって言われるような技術一般の、ある種の本質を的確に表現していると思う。昨年、本屋の店頭でこの言葉を見て、すごく、このフレーズが好きになった。

世間一般では、「ステレオタイプなものの見方」ってのは、悪い意味に使われることが多い。

アイツは、ステレオタイプなものの見方をするって言ったら、その「アイツ」は、例えば、日本人は、みんな、メガネとカメラとネズミ色のスーツを着た、仕事中毒でスケベな「さらりーまん」であるとか、中国人は、みんな、ケチンボで、いつも、チャイナドレスか人民服を着て、ラーメンを食べているとか、アメリカ人は、、、ま、とにかく、そういうことを言っているヤツである。

ステレオタイプってのは、しばしば、人種差別や学歴差別、性差別とも、結びつきやすいので、あんまり、そんなことを言っていると、問題になりやすい。

でも、ある種のhackは、間違いなく、そういう決めつけを有用に使うことで、成り立っている。

hackってのは、もともと、英語の俗語で、大雑把で安直だけれど有用な仕事をさすコトバだったらしい。この感覚は、perlとかrubyで、その場で適当に、とりあえず作るスクリプトなんかにぴったり来る感じがする。あるいは、パーティとかで、みんなが集まったときに、その辺のありあわせの材料で、適当においしいものを作ってくれるクッキングパパ風の料理上手のヤツとか。

というわけで、コンピュータ分野では、やっつけ仕事みたいな、短時間で適当にされたけれども、それなりに使えるプログラムを作るやつのことを、hackerって呼ぶようになった。そういう、多少イイカゲンでも、短時間で、仕事を適当に片付けることがいいことだと思われている職場では、だから、hackerってのは、すごいヤツのことだ。反対に、時間をかけて、じっくり腰をすえて仕事をすることがいいことだと思われている職場では、hackerってのは、あんまり、褒め言葉じゃない。ま、当然。

現在では、hackって言葉は、かなり多義的になっちゃったけれども、本来の意味でのhack、簡単なやっつけ仕事のプログラムってのは、その場で、インスタントに作られたプログラム。だから、とりあえず、その場で動けばいいってスタンスで作られることが多い。

怠惰なhacker「このテキストを、こいつに流し込むと、結果がこういう風に出てくるだろ、これで出来上がり。やった。10分で、必要なプログラムが完成したぞ。」
勤勉なprogramer「でも、ユーザーが間違って、テキスト以外のものにこのプログラムを使ったら、どうするの?」
怠惰なhacker「いいよ、どうせ、とりあえず、僕らが使うだけのプログラムなんだから。当面、このプログラムが処理するのは、テキストだけだろ?だったら、テキストファイルだって決めつけちまってもいいじゃん。」
勤勉なprogramer「あと、この部分、ネットワーク上で近くにあるサーバーを列挙する必要があるんだけれど。」
怠惰なhacker「あ、そこ? とりあえず、ドメイン名がjpで終わるサーバーは、他より近くだと仮定してるの。」
勤勉なprogramer「それ、今回はたまたまそうだけれど、いつもそうとは限らないと思うんだけれど。」
怠惰なhacker「いいよ。今回はそれでうまくいくはずだし。それに、たいていはjpで終わるドメインは、日本のサーバーだから、他のトップドメインより近くだと思うよ。必要になったら、その部分だけ変更すればいいでしょ。」

こういう具合に、手早くザクザクと仕事をするためには、ある程度、大雑把な決め付けが必要なのだ。

さて、近年、ホワイトカラーは、より短時間で、たくさんの仕事をこなすことを要求されるようになった。そういうホワイトカラーたちの一部は、短時間で、高速にストレスなく仕事をするために、コンピュータのエンジニアたちのやっていたhackの仕事の手法を取り入れることになった。

つまり、大雑把であっても、手早く仕事を片付けるためのアイデアと決め付け。

それが、lifehackである。少なくとも、僕の理解するところでは。

必然的に、lifehackには、ある程度のステレオタイプを前提にしたものが含まれている。

「ウェブの情報のうちこの分野で重要なものは、たいていは、あの人かこの人のブログで触れられているはずだから、RSSで追っかけてれば、たいていは大丈夫だよ。」
「送られた文章を全部は覚えていられなかったとしても、とりあえず、どこからでもアクセスできるTODOリストを作れば、後の情報は、必要なときに全文検索すれば、たいていは大丈夫だよ。」

その他もろもろ。

世の中のたいていの仕事は、とりあえず合格点に達していれば、完全でなくてもいい仕事である。また、たいていの仕事は、手早く、期限内に行うことが求められる。だから、こんなことは、別に、lifehackなんていわれなくても、ある程度、仕事の早い人は、昔から無意識にやってたことであろう。

「アイツは、その分野に詳しいから、とりあえず、その分野の仕事は、アイツに振っておけば、たいていは問題ないよ。」
「新しい製品を購入するときに、その製品を、きちんと調べる暇がない。何を購入するかは、手早く決めなくてはならない。だから、とりあえず、あのブランドにしておけば、たいていは問題ないよ。」
「新人を雇うとき、誰が一番優秀か、きちんと調べる暇がない。とりあえず、偏差値の高い大学を出ていれば、たいていは問題ないよ。あ、一応、英会話ができるかどうかだけは、確認しておくけれどもね。」

こんな感じ。

さて、ステレオタイプってのは、正しいこともあれば、間違ってることもある。一般論として、現時点では、大きくは外れていないだろうと推測しているというだけである。

lifehackってのがはやっているのは、たぶん、多くの仕事で、どういうステレオタイプを、どういう局面で使うべきが自覚的に考えておく必要が出てきたということなのだろうと思う。

で、僕が気になっているのは、そういうステレオタイプの有用性を疑ったときに、どうすればいいのかってこと。
簡単にステレオタイプが正しいか調べられるなら、そうすればいい。
でも、たいていの、日常的な判断に使われるステレオタイプってのは、簡単には、裏を取れない。
あのブランドのほうが、このブランドよりもいいって、どうやって確認する?
あの大学出身者より、この大学出身者のほうがいいって、どうやって確認する?
この仕事のやり方で、たいてい問題ないって、本当?

もちろん、hackの時代だから、その裏取りも、いちいちごちゃごちゃ調べたりせずに、とりあえず、これだけを調べれば大丈夫っていう、大雑把で手早い方法を求めているわけだ。

で、僕なりの、いつも使っている方法がいくつかある。本当は、ここからが本題なんだけれど、エントリーが長くなったので、とりあえず、ここまで。

つづきは、次回。