NAADA「宇宙で君と踊る」2015.11.7@東新宿 真昼の月・夜の太陽 | What's Entertainment ?

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2015年11月7日、東新宿の真昼の月・夜の太陽でNAADAが出演するライブ・イベント「宇宙で君と踊る」を観た。
僕がNAADAのライブを観るのは、これが42回目。前回観たのは2015年7月25日 、場所は同じ真昼の月・夜の太陽だった。
この日は、NAADAのメンバーとしてCOARI(笹沢早織)が正式加入後の初ライブである。

NAADA : RECO(vo)、MATSUBO(ag)、COARI(pf) + 宍倉充(b) + 古沢優子(chor)






では、この日の感想を。

1.Humming
前回のライブは宍倉を除いた4人編成で、その時同様4声コーラスでの歌い出し。PAがやや安定性を欠いているものの、ギターの押し出しもハーモニーの繊細さも聴き取れるし、RECOのボーカルもクリアーである。
宍倉のベースがグルーヴして、COARIが奏でる転がるようなピアノのフレーズもキュートに響く。
エコーの深過ぎる音像が演奏の良さをやや阻害しているのが難だが、非常に完成度の高いアレンジとパフォーマンスである。その意味でも、この曲におけるひとつの完成形的クオリティに到達しているように感じた。

2.overlook
演奏を牽引すべきギターの音がざらついて聴こえるのが気になるし、全体的に音が平板で立体感に乏しい。曲の持っているキャラクターを考えれば、いささか抽象的な表現になってしまうがもっとガッツある客席に迫ってくるような音で聴きたい。グルーヴィーにうねるベース・ラインと技巧的な歌が、魅力的。
演奏が後半に入るとサウンドが整ってきて、ようやく音が前に出てくる。できることなら、通してこの音像で聴きたかったところである。

3.echo
MATSUBOの奏でる繊細なギター・イントロの響きが心地よい。ところが、本来もっと静謐に響かせるべきRECOのボーカルにやや作為的とも思える深いエコーがかかってしまい、この曲も魅力ともいえる抑制された喪失の哀しみが的確にアウト・プットできていないように思う。
とにかく二人だけの演奏だから、ストイックでナチュラルな音で聴きたい。個人的にはかなり思い入れのある曲だけに、残念である。

4.愛 希望、海に空
前回のライブでもハイライト的に響いた曲で、その時も「ひとつの到達点的プレイ」だとレビューに書いたのだが、驚くべきことにこの日の演奏は更なる進化がもたらされていた。
基本的にはポップスを標榜するNAADAにあって、「愛 希望、海に空」という楽曲はある意味異色のレパートリーと言えるかもしれない。最小限に削ぎ落された詞と抽象的なまでに拡がりを持ったイマジネイティヴなメロディは、色々な音楽的表現の可能性を秘めている。
この日の演奏は、先ず情緒的なCOARIのピアノ・フレーズのイントロでスタート。そこに、MATSUBOがアタッチメントを使ったギター・エフェクトで、ブルース・ハープとインダストリアルなシンセのような音をギターで被せる。そこにハッとするようなボーカリゼイションが加わって、現出するのは極めて音響的な現代音楽の如き音像である。
もはや、西欧のシンフォニックなプログレッシヴ・ロック同様の難易度と高い音楽的志しに圧倒される。後半の展開では宗教音楽のような荘厳ささえ纏って、敬虔さを伴った静寂なエンディングを迎えた。その揺るぎない音楽的確信に満ちた演奏に、正直鳥肌が立った。
何と言っても素晴らしいのは、これだけ音を構築しながらも、旋律自体はシンプルにメロディアスで、トータルとしてのポピュラリティからは逸脱していないところである。ギリギリのところで、NAADAの音楽的アイデンティティにとどまっているのだ。
本当に、ひとつの到達点と断言できる圧倒的な完成度であった。

5.RAINBOW
水彩画のような佇まいのピアノとギターのアンサンブルに、爽快感を伴う2声のコーラス。そこにRECOのメイン・ボーカルが加わって、メンバー3人によるナチュラルでポジティヴな演奏が展開する。
やはり、深過ぎるエコーが音像を拡散させてしまい、曲の輪郭がややぼやけてしまう。安定感抜群のRECOの歌がハッピーな解放感に満ちているだけに、この音は何とも残念である。


前回のライブもかなりのクオリティに舌を巻いたが、この日の演奏はさらに上を行く素晴らしい内容だった。
ただ、演奏の素晴らしさ故に、この会場のPA的な問題点もより露わになってしまい、聴く側にとっては結構なストレスだったのもまた事実である。本当に、深刻でシビアな問題点だと思う。
前回と今回での大きな違いは、言うまでもなくこれまでサポート・メンバーだったCOARIがNAADAの正式メンバーとなったことで、彼女がメンバーであればこそのバンド的な一体感とより深い音楽的な試行錯誤が可能になったのではないか、と推察する。
それはこの日の演奏の随所に聴き取れたし、今後のNAADAの音楽的進化を予感させる。長年聴き続けている一ファンとしては、彼女の加入をシンプルに歓迎したいと思う。

この日のライブは、ある種の達成感に満ちた素晴らしい演奏内容だったし、次なる飛躍へのインロトダクションのように僕の耳には響いた。
今年のライブはこれがラストのようだが、これからのNAADAの音楽的前進に期待したい。