切実「ふじきみつ彦・山内ケンジ傑作短篇集」@下北沢小劇場B1 | What's Entertainment ?

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2015年8月29日のソワレ、下北沢小劇場B1で切実「ふじきみつ彦・山内ケンジ傑作短篇集」を観た。




演出は岡部たかし、脚本はふじきみつ彦・山内ケンジ(城山羊の会)、舞台監督は鳥飼麻由佳、照明は太田奈緒未、音響は藤平美保子、音響操作は小倉祐子、版画制作は岩谷健司。制作は城島和加乃・平野里子(E-Pin企画)、制作協力は城山羊の会、製作は切実。
協力はバードレーベル、レトル、アミューズ、クリオネ、森下紀彦、神永結花、山北舞台音響、㈱ASH&D、ムロツヨシ、シバイエンジン、E-Pin企画、武藤香織、清水美帆、谷慎、上野詩織、猪瀬青史、石井春花、美馬圭子。
出演は岩谷健司、本村壮平、島田桃依(青年団)、松村翔子、田島ゆみか、岡部たかし。







本公演で上演されたのは以下の短篇6本(順不同)。

山内ケンジ:「婚約者」、「気立てのいいワンさん」、「新・愛の渦」(新作)
ふじきみつ彦:「つばめ」、「ロース」、「再会」(新作)


「婚約者」
中華料理店を経営する親子(岡部、本村)の元にやって来た長女(松村)。彼女は、上野の動物園で働いており、いい歳をしてまだ独身。その娘が、とうとう結婚を決めたと言う。
ところが、喜んだのも束の間。彼女が連れて来た相手(岩谷)は、何と…。

「気立てのいいワンさん」
とある時代の戦時下の日本。やり手の女将(島田)が経営する売春宿で、馴染みの女(松村)とひと時の情事を楽しむ男(本村)。女にせがまれ男は延長しようとするが、女将がやって来て次の客が入っているからと断られる。そのお客は変態嗜好の男(岩谷)で女は嫌がるが、何と男の上官だった。
痺れを切らした上官がやって来るが、彼は新人の女(田島)の方を気に入り連れて行こうとする。そこに爆音が響き渡り、敵国の中国人(岡部)が乱入、日本の敗戦を宣言するが…。

「新・愛の渦」
六本木の雑居ビルの一室。秘密の乱交クラブの待合ロビーで、女の到着を待つ男客二人(岡部、本村)。店長(岩谷)は、まるでやる気が感じられない食えない中年の男。
そこに常連の女二人(田島、村松)と初めてと思しき女(島田)が現れるが…。

「つばめ」
義兄(岩谷)から肝臓をもらって肝移植で助かった男(岡部)。男は実の弟(本村)と共に兄夫婦の家に礼を言いに行くが、不用意な発言から義姉(島田)の機嫌を損ね…。

「ロース」
スポーツジムで知り合った二人(島田、田島)は、トレーニング帰りにとんかつ屋に来ている。先にロースかつ定食がやって来るが、それを見ていた別のお客(松村)が、自分はヒレかつを頼んだのだが、一切れ交換しないかと話しかけて来る。
見ず知らずの人間に奇妙な申し出を受けて、二人は混乱するが…。

「再会」
コンビニを経営する夫婦(岩谷、松村)の元を、アルバイト希望の男(本村)とその付添い(岡部、島田、田島)が訪れる。だが、その男は4年前にこの店に強盗に入った罪で服役して、つい先日出所したばかりの元受刑者だった…。


岡部たかし岩谷健司は、山内ケンジの城山羊の会の舞台以外にもあれこれ活動しているが、その中のひとつに自分たちが企画に絡んだ短篇の舞台がある。
ユニット名は、「切実」であったり「昨日の祝賀会」 であったり「射手座の行動」 (これは、ふじきみつ彦の企画だった)とその時々で変化する。

今回上演された6本もふじきみつ彦と山内ケンジの脚本だけあって、どれもなかなかにシニカルでブラックなコメディ色の強い作品が揃っている。そして、脚本の面白さを具現化する役者陣6人の演技も、充実していて見応えがあった。

ショート・スケッチというのは、コンパクトな構成の中で如何に観客を唸らせるかというキレ味がすべてだから、長篇とはまた違った難しさがある。基本的にあまりドラマを語れないから飛び道具的な仕掛けで畳みかけるしかないし、演じる役者の反射神経がより一層求められる。

僕の好みからすると、今回一番面白かったのは「再会」であった。突き放すようなラストには、ちょっと山内演劇的なものを感じたのも興味深かった。
飛び道具的という意味では、一部では伝説的な岩谷健司の“あの演技”を堪能できる「婚約者」は、もはや危険球である(笑)
軽妙な「つばめ」のバカバカしさも悪くない。

その一方で、タイトルからして反則技一歩手前の「新・愛の渦」は時事ネタも加えたポリティカル・シニカルな一本だが、オチの部分が弱いのが難点である。
「ロース」は、役者の演技こそ買うが、流石にネタがくどくて終盤疲れてしまう。

そんな中、最も異色の作風と言えるのが、「気立てのいいワンさん」だろう。僕は、この短篇を昨日の祝賀会「冬の短篇」でも観ているが、その時よりもいい意味でコンパクトに見せていたと思う。ただ、その反面この作品が内包するドロッとしたキナ臭さと後味の悪い残酷さが後退してしまったようにも思う。
本作のキモは、短篇の中で目まぐるしく主従が入れ替わり、搾取する側とされる側の立場が次の瞬間には逆転する残酷さで、それを戦争という舞台装置を使って描いたところにあると思うのだが、今こそ不吉なリアリティを感じてしまったりする訳だ。
その意味でも、やはりこの作品はもう少し煮詰めて山内ケンジ演出の長編として観てみたいと思ってしまう。

いずれにしても、良心的な入場料でなかなかに充実した演劇を観ることができるお得な公演であった。
是非、これからもコンスタントに続けてほしい企画である。