ササニシカ vs re-trick~勝敗を決めるのはアナタ!~@南青山MANDALA | What's Entertainment ?

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2014年9月28日、南青山MANDALAにてササニシカとRe-Trickの対バン・ライブ「ササニシカ vs re-trick~勝敗を決めるのはアナタ!~」を観た。とはいっても、翌日が早かったのでササニシカしか聴かなかったのだが。




今回、初めてササニシカのライブに足を運んだのは、NAADAのライブを時々サポートしている笹沢早織がメンバーの一人だったからである。僕は、早織ちゃんの弾くピアノの音色が好きなのだ。




ササニシカは、その名の通り笹沢早織(pf)西広樹(g)川崎綾子(ds)の三人からなるインストゥルメンタル・ユニットで、2011年春に「ジャンルレスで個性的な楽曲。風景が思い浮かぶような色彩豊かなサウンド」をテーマに活動を開始したそうである。
なお、この三人は2008年1月30日に解散した6人編成のバンド「ジムノぺディ」のメンバー(笹沢は2007年に脱退)であった。
ササニシカの音楽性の根本にはジムノペディ時代との連続性もうかがえるが、ジムノペディの楽曲を印象付けていたのが田中直美のボーカルと小林殉一のサックスだったことを考えると、目指すものは恐らく違うだろう。

僕がササニシカを動画サイト等で聴いた印象は、カッチリと端正にアレンジメントされたカラフルな音楽というもの。色んなタイプの曲があるのだが、トータルとしては80年代日本のフュージョンとプログレッシブ・ロックの中庸といった感じに聴こえた。
もちろん、音の作り自体は至って今風でテクニカルなのだが、その血肉となっている部分に関してはやや懐古的に思えなくもない。
また、技巧的という意味では一種の洒落でメンバーが行った「完全再現レコーディング」シリーズが象徴的だろう。

近くにあるライブハウス月見ル君想フには何度も行ったことがあるが、南青山MANDALAは初めてである。吉祥寺の如何にもなライブハウスMANDA-LA2とは正反対の圧倒的なラグジュアリーさに、息も詰まり気味であった…。




この日は、サポート・メンバーとして野地智啓(b)と足立浩(perc)を加えての演奏だった。

では、当日のライブの印象を。

1.パレード
出音のバランスがいささか悪いのが、結構気になる。ギターの音はくぐもってるし、ドラムは抜けないし、ベースとピアノに至ってはほとんど聴き取れない。
音像的にはやはりプログレ・ライクなサウンドに聴こえるが、せっかくの複雑なアレンジがPAのためかメリハリなく響くのが残念である。

2.オープニング
一曲目を終えると、オープニング方々カラフルな演奏。ここでは、音の分離がよくなって、しっかりと演奏の行間まで聴き取れた。ややグダり気味に笹沢が挨拶(早織ちゃん、ササニシカではMCなんだ!)してからのソロ回し。「セント・トーマス」~「ダイヤモンド・ヘッド」~「ミッシェル」~「ボーイフレンド」からのメタリカ。

3.Wabi-Sabi
イントロは音圧の高いロックなのだが、何だか純邦楽のような響きの不思議な曲で「侘び寂」のタイトルに偽りなしである…かと思えば、ノーマルなロックに揺れ戻す。
なかなかにユニークな楽曲だが、スキルの高さは伝わってもこのバンドのアイデンティティのようなものがなかなか見えない。そこがメンバー言うところのジャンルレスということなのかもしれないが、気にかかるのは一曲を束ねる音楽的な核の不在である。この曲に関していえば、その役目を担うべきは西のギターだと思うのだが。

4.Beautiful Black
対バンであるRe-trickのカヴァー。イントロのギターでわずかにタメを作っているように聴こえたのだが、次の展開になると何だかタイム感がつかめていないように感じた。むしろ、ストレートにカッティングしてくれた方が個人的には気持ちいいが。
間奏をダブ的に処理すると面白いのではないか。

5.Slide of Life
トリッキーに聴こえる導入部から、プログレ的なドラム・プレイが続く。音数が増えてもサウンドに明確なポリシーとストイックさが伝わるところがいい。トータルとして、穏やかな音像なのだ。それが、途中から疾走し始める展開も刺激的だ。
ただ、後半に入って畳みかけるようなギミックが入るところに過剰さを感じなくもない。その辺りにも、ササニシカというユニットの問題点を僕は見てしまうのだ。

6.春~カーテンコール
大和真二郎をゲスト・ボーカルに迎えての曲。彼は山下達郎「クリスマス・イブ」完全カヴァー・レコーディングの参加メンバーである。
ササニシカの楽曲としてはシンプルな演奏だが、もう少し違ったアプローチの仕方があるのではないか。ボーカルも複数のよる厚みが欲しいように思う。一人10CCみたいだな…と思って聴いていたら、「完全再現レコーディング」第二弾として10CC「I’m not in love」をカヴァーしたことを知った。

7.クリスマス・イブ
で、その山下達郎カヴァー。思うのは、完コピ・レコーディングするのはシャレ企画としては面白いが、それをそのままライブ演奏するのはどうなのかな…ということだ。せめて、このバンドならではの演奏で僕なら聴きたい。


8.樹花鳥獣奏
僕のリズム感に問題があるのかもしれないが、ところどころアンサンブルがジャストに聴こえない気がした。曲のキャラクターからすれば、スタートのギター演奏から一気に持って行くべきだと思うのだが、どうにもグルーヴし切らないもどかしさがある。
笹沢のピアノ・プレイは印象に残った。

9.タイトル未定~エンディング
ラテン的な楽しい演奏。この曲が、個人的にはこの日の白眉だと思う。しっかりした演奏だが、そこに押しつけがましさは微塵もなく、カラフルなポップさが前面に出た演奏が清々しい。
ササニシカのライブに必要なものは、この曲で聴けたようなオーディエンスに向かって開かれた自由な雰囲気ではないかと思う。
ただ、ここでいう自由さは、決して川崎綾子が披露した肉体労働者的なダンス・ステップのことではないけど(笑)


初めて彼らのライブを聴いての感想を言わせてもらうと、ササニシカは現段階ではあくまでレコーディング・ユニットなのでは?ということだ。
スタジオで構築するような整然とした音が、ライブではあまり生かされていないように思ったからだ。そう、「ライブならでは!」という魅力にまでは至っていなかったように思う。少なくとも、この日の演奏について言えば…ということだが。

思うに、「ジャンルレス」「色彩豊か」という彼らの標榜する音楽性が、ややもするとユニットとしてのアイデンティティの欠落に陥ってはいないか。
音楽的な素養も演奏技術の確かさも伝わっては来るものの、そこにササニシカとしての一本通った筋のようなものが感じられないのだ。「民主主義的な散漫」とでも表現すればいいだろうか。

ただ、次のササニシカのライブも僕は聴いてみたいと思う。
恐らく、この三人は奏でるべき自分たちの音楽がより明確になれば、化学変化を起こしそうな予感がするからである。