世志男『四畳半革命 白夜に死す』 | What's Entertainment ?

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2008年の世志男監督『四畳半革命~白夜に死す~to be or not to be..』

35mmの夢、12inchの楽園
35mmの夢、12inchの楽園

製作はかわさきひろゆき、企画は岩本光弘、ラインプロデューサーは大高正大、脚本は小松公典、撮影は渡辺世紀、録音は広正翔、助監督は宝田雅資、アクションコーディネーターは坂田龍平、衣装はかわさきりぼん、音楽は園田容子、演出部は太田美乃里・小島一洋、制作・宣伝は間宮結、宣伝美術は細谷麻美、撮影助手・MAは荒木憲司、小道具は高津小道具、美術はオカシネマ、メイキングは前田万吉、スチールは渡辺恵子、WEB制作は五十嵐三宏、スペシャルサンクスは島津健太郎・富永研司・伊藤俊・籐榮史哉・幸将司、制作協力はシネマアートン下北沢・おかしな監督映画祭実行委員会・小中健二郎・深澤俊幸・吉田剛也・下村芳樹・木下真紀・小林憂香・本弘・永井裕久・劇団超新星・SPD事務所・劇団クラゲ荘・PINK AMOEBA・劇団醜団燐血・劇団木霊(早稲田大学)・スナック里鶴・ピーエルピー・エイトライン・ジルエンタープライズ・、TOKYO U.T.。
製作はOKACINEMA、配給はサクセスロード。


こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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1970年代初頭。学生運動からはかつての熱気がうせ、行き詰った閉塞感と内ゲバによる陰湿化を加速させていた。早稲田大学で学生運動を率いる中丸陽介(藤内正光)は、ノンポリの武闘派・横山直也(三元雅芸)を使って対抗組織を暴力的に制圧している。
この夜も、彼らは対抗組織の河本太一(前田万吉)と勝彦(前田広治)の兄弟を襲った。勝彦は逃げ延びたが、太一は直也に鉄パイプを振り下ろされ他の連中に叩きのめされる。

35mmの夢、12inchの楽園

翌日、直也は陽介から多額の報酬を受け取る。しかし、陽介のやり方に仲間の江藤香(山田慶子)は反発する。陽介に想いを寄せる彼女は、暴力で支配することに強い違和感を覚えていた。

そんなある日、学内で直也が香と口論していると、背後から勝彦がナイフで襲いかかった。間一髪でかわした直也は、ナイフを奪って逃げる勝彦を追った。

35mmの夢、12inchの楽園

神田川に逃げ込んだ勝彦を追い込むと、直也はナイフを突き付ける。彼はそのまま刺すことができず、蹴りを入れその場を去ろうとした。
しかし、勝彦が背後から石で殴りつけて来たため、再度の揉み合いの末に直也は相手を刺殺。自分も深手を負ったまま、その場から逃げた。
その後、現場にやって来た香は愕然とする。彼女は、凶器となったナイフを現場から持ち去った。

35mmの夢、12inchの楽園

頭から血を流し、酔客をかき分けて夜の街を彷徨う直也。彼に声をかけて来た街娼たち(水原香菜恵、間宮結、堀江久美子)は、彼の怪我を見ると逃げて行った。

煤けた和室の布団の上で、直也は目を覚ます。隣室からは、男女の営む声が漏れ聞こえて来た。彼の傍には、売春婦のアッコ(結木彩加)が寄り添っていた。ここは、スナック里鶴(りず)の二階にある売春宿。足が不自由で天涯孤独のアッコは、里鶴のママ(里見瑤子)を母親のように慕っている。
彼女の話では、直也はまる一日眠っていたようだった。

35mmの夢、12inchの楽園

直也は、アッコに気に入られたようだった。彼は階下に降りて行き、ママに組織からもらった報酬全てを渡すと「これで、居られるだけ居させて欲しい」と言った。
アッコはかつてのお客だった船乗り(春田純一:特別出演)が戻って来るのを今もずっと待っていた。アッコに招かれて、直也は初めて女と交わった。彼女との日々は、直也に自分の生き方を考えさせた。
家からも周囲からも暴力をふるわれ続けた直也は、その暴力から逃れるために自分が加害者の側に回って今を生きていた。しかし、それが誤りであることに彼女を見ていて気付いたのだった。
お礼がしたいと直也が言うと、アッコは白夜が見たいと言った。

新聞は、容疑者不明のまま勝彦の死を報道した。香がナイフを持ち去ったお陰で、直也のことはまだばれていない。そのことに感謝の言葉を述べると、陽介は彼女のことを抱いた。香は、いよいよ陽介に耽溺する。

35mmの夢、12inchの楽園

船乗りは、アッコの元を去る時に自分が帰って来なければ自分は白夜の下で死んでいると言った。彼女は、自分が男の墓となるべく白夜を見たいと言ったのだ。
直也はアッコを連れ出すと、自転車二人乗りでデートした。アッコは直也に身をもたせかけると「うちは、世界一幸せ」と言った。その言葉に、直也は落涙する。

35mmの夢、12inchの楽園

直也は陽介に電話すると、自分に自首されたくなければ一千万出せと言った。仲間内に殺人犯がいるとなれば、組織は失墜する。それを恐れた陽介は、香にあることを命じる。
約束の建物の屋上に直也が赴くと、紙包みを抱えた香がやって来た。しかし、彼女はナイフを取り出すと直也に体当たりした。直也は、腹部を血に染めると屋上から落下した。
事の首尾を告げに行った香は、陽介から「俺のために、その金を持って消えてくれ」と言われる。逆上した彼女は、直也を殺めたその凶器で陽介を刺した。

35mmの夢、12inchの楽園

空を見上げる直也は、ギラつく太陽を見て「白夜…」と呟き、そのまま事切れた。

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四畳半で東京ドームを包み込む風呂敷を広げようとしたとて、それは土台無理な話である。
本作は、言ってみればそういう作品だろう。

今、学生運動を描くことは簡単ではない。物理的側面について言えば、モブシーンが不可欠だからだ。然るに、本作はオカシネマ製作の低予算作品である。立ち向かう相手があまりにもデカ過ぎる。

演出的側面について言えば、本作が提示する舞台は学生運動末期である。学生運動は70年安保条約の自動延長を阻止できず、敗北感を伴った鎮静化に向かう。しかし、一部の活動家が内部対立から陰湿な内ゲバによる武闘闘争を展開し、いよいよ市井の人々の支持を失っていく。本作が扱っているのは、まさしくそんな時節である。
ところが、本来なら緊張感みなぎるはずのストーリーテリングが、この作品ではあまりにも牧歌的に過ぎるのだ。もちろん、学生運動の全てがギリギリの状況だった訳ではないだろう。しかし、学内を暴力で制圧せんとするリーダーの陽介周辺がこれでは、そもそも作品コンセプトにもとるのではないか?
バジェット的なことを鑑みるに、本作は一部の暴力シーンを除けば、基本的に極度の緊張感を伴った密室劇で展開すべきであったと思うのだ。

で、ここまで書いておいて何なのだけど、そもそも本作の舞台を学生運動に求める必然性があったのだろうか?そんな身も蓋もないことを、僕はずっと考えていた。
物語の核となる直也の暴力性にしても、彼を利用する陽介や反発する香にしても、あまりにも行動原則が単なる利己的ミニマムに過ぎるのだ。

身体障害者の娼婦アッコとの邂逅により自己を再生するロマンティシズムはいいとして、暴力発露の原因がかつて虐められていたからというのは、あまりと言えばあまりな理由である。そこに、学生運動の内ゲバを持ってこられてもなぁ…と思うのだ。
香にしても、革命だの何だのと言いつつも結局は色恋にまみれた都合のいい女に過ぎず、陽介は陽介で最終的に飼い犬に手を噛まれる間抜けなリーダーに過ぎない。
誠に困ったものである。

それに、演出的に見てあまりにも時代描写に一貫性がない気もする。学生運動の70年代初頭はいいとして、売春宿や行きずりの船乗りというのは昭和30年代的佇まいある。その一方で、街の雰囲気はしっかり現代のままなのだ。
まあ、そういう世界観が最終的には昼メロ的エンディングに収束する訳だが。

役者陣に目を向けよう。主役の三元雅芸はこれが映画デビュー作である。『ナイトピープル』 であれだけテンションの高いナチュラル・ボーン・キラーを演じた彼だ。人に歴史ありと言うかなんというか…。それにしても、この当時の三元はどことなく千原ジュニアに雰囲気が似ているように思う。
ヒロインを演じた結木彩加は、拙さもあるがなかなかの雰囲気だろう。
しかし、物語のヒールである中丸陽介役の藤内正光や彼の部下たちの緊張感が欠如した演技は頂けない。
個人的には、地味だが山田慶子に一番好感が持てた。

本作は、色んな意味で中途半端さが否めない作品だろう。
最低限、この時代の緊張感だけでも再現して欲しかった残念な一本である。


余談ではあるが、本作DVDに高橋伴明がコメントを寄せているのが、個人的には一番の驚きであった。