なかみつせいじ×里見瑤子『小鳥の水浴』@梅ヶ丘 ああ星菫派 | What's Entertainment ?

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映画や音楽といったサブカルチャーについてのマニアックな文章を書いて行きます。

昨日は、梅ヶ丘のああ星菫派になかみつせいじ演出の二人芝居『小鳥の水浴』を観に行った。
会場に到着すると久保田泰也君が場内整理をやっており、客席には渡邊元嗣監督、工藤雅典監督、世志男さん、小滝正大さん、上野オークラ劇場のN島さんの姿がある。僕はといえば、水ブタ師匠こと小松公典さんと一緒だった訳だけど。


それでは、物語を紹介する。

ニューヨークの片隅、裏ぶれたバー。閉店間際の店内にはお客もおらず、ウェイトレスのヴェルマ・スパロウ(里見瑤子)がしきりにカウンターを拭いている。今日からこの店に入ったフランキー・バスタ(なかみつせいじ)は、カウンターの中で文庫本を読みながらヴェルマの姿を時々見やる。

35mmの夢、12inchの楽園

ヴェルマは、思い切るようにフランキーに話しかけるが、彼女はまるで落ち着きがなく話もチグハグだ。捲し立てるように言葉を続けては、しきりに母親や兄弟の話をする。フランキーはうんざりしながらも、辛抱強く彼女の話に耳を傾ける。
彼女は、心ここにあらずの体で同じ箇所を何度も拭いている。終始緊張しっ放しで、何かと言えば「お母さんが言うの。お前のような学のないブスは…」とネガティヴな話をした。閉店時間になり、ヴェルマにコートを着せようとするフランキー。しかし、彼女の肩に触れただけでヴェルマは激しく動揺した。挙動不審のまま、ヴェルマは仕事を上がった。

店の戸締りを終えて外に出るフランキー。しかし、先に店を出たはずのヴェルマが、店の前に立っていた。「いつもはそんなことないのに、何だか今夜は急に怖くなってしまって。あなたに駅まで送ってもらえないかと思って、ここで待っていたの」と彼女は言い訳するように言った。
しかし、彼女が住んでいるブロンクス方面に行く駅に向かおうともせず、ヴェルマは立ったまま話し続ける。出て来る話題といえば、相変わらず母親と兄弟の話ばかりだ。
あまりの寒さに、フランキーは言った。「僕の家は、すぐそこなんだ。こんなところで立ち話してると寒くて仕方がないよ、ヴェルマ。僕の家でコーヒーでも飲んで暖まって行かないか?」。
ヴェルマは彼について来たが、男の人の家に入るのは初めてだと彼女は緊張の面持ちだった。

35mmの夢、12inchの楽園

散々迷った挙句にヴェルマはフランキーのフラットの中に入った。フランキーはお気に入りのレコード、ローリング・ストーンズのシングル「アンジー」をかけると、自分にはスコッチをヴェルマには紅茶を入れた。

35mmの夢、12inchの楽園 35mmの夢、12inchの楽園

35mmの夢、12inchの楽園

ヴェルマはいつまで経ってもコートを脱がない。いい加減酔いが回ったフランキーが彼女に「シャル・ウィ・ダンス?」と誘っても彼女ははぐらかした。フランキーは、次第に苛立ち始める。

35mmの夢、12inchの楽園

フランキーの趣味は、鉛筆で紙に詩を書き、タイプライターで小説を打つことだった。しかし、いつまで経っても彼の文才は評価されない。付き合った女は何人もいたが、皆仕舞には愛想を尽かして彼の元を去って行った。
資産家の娘と付き合った時、彼女は妊娠した。しかし、いつまで経っても甲斐性なしのフランキーに苛立ち、彼女は父親の会社に就職するようフランキーに迫った。二人は諍いを起こし、フランキーは彼女に手を挙げる。その衝撃で、彼女は流産。二人は別れ、フランキーには子供を殺した罪悪感と使い古された中古のタイプライターだけが残された。

ヴェルマも途中からバーボンを飲み始める。さらに酔ったフランキーはヴェルマのことが欲しくなる。
ようやくコートを脱いだヴェルマに再度踊りを誘うフランキー。

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しかし、ヴェルマに迫ろうとすると彼女の態度が急変する。彼女は、コートから血の付着したナイフを取り出すと、フランキーに向けた。「これ、お母さんの血よ!」と彼女は金切り声を出した。
ギョッとした表情で固まるフランキー。

35mmの夢、12inchの楽園

35mmの夢、12inchの楽園

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働かない母親のために、ヴェルマは店以外のバイトもしていた。しかし、さらに仕事しろと母親が迫った。その仕事は、売春。しかも、すでに手付金までもらっているから断ることなど出来ぬ相談だと母親は言った。パニックに陥ったヴェルマは、朝の食卓で母親をこのナイフで殺めたのだ。
ヴェルマはナイフを取り落とすと「とても、疲れたわ。眠いわ…」と言って、ソファベッドに横たわると目を閉じた。ヴェルマの寝顔を見ながら、フランキーは鉛筆を走らせると一片の詩を作った。

寝ているヴェルマに向かって、フランキーはたった今書き上げた詩を読み上げるのだった…。


正直に言えば、僕は池島ゆたか監督周辺の方々ほどレナード・メルフィの「Birdbath」に思い入れを持たない人間である。

35mmの夢、12inchの楽園
35mmの夢、12inchの楽園

しかも、僕は翻訳ものの古典演劇を好まない。僕が求める演劇とは、優れて今日的な日本のオリジナル作品だからだ。
にもかかわらず今回観劇したのは、なかみつさんが20年ぶりに舞台に立ち演出までやるからである。この機会に観ておかないと、次いつなかみつせいじの芝居を生で観る機会が訪れるか分からないからだ。

で、今回の感想を言えば、なかみつせいじはもちろん、すでに何度もヴェルマを演じて来た里見瑤子もなかなか安定した芝居を見せていたと思う。

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しかし、本作が提示する物語の脚色に古さは否めず、しかもあまりに手狭なステージで間近に展開するいささかオーヴァー・アクションの芝居に僕はどうにも居心地の悪さを拭い切れなかった。
今回の公演は、ニューヨークの教会での公演を想定して一切装置を要しない舞台構成になっているのだが、やはり観るならもう少し舞台の空間性が欲しいし、今日的視座に立った脚色を僕は求めてしまう。
僕が演劇に求めるものは、現代社会の某かと対峙する物語姿勢だからである。

とはいえ、手の届くところで演じるなかみつせいじの芝居を観ることは一つの至福である。
僕は成人映画館で毎週のように彼のあらゆる時代のピンク映画を観ている訳だが、やはり今の彼こそが最も役者として色気を感じる。

終演後、なかみつさんや久保田君ともじっくり話せたし、舞台をやるなかみつせいじに手応えを感じた60分であった。