輪廻転生とは、生命が死後、再び新たな存在として生まれ変わるという仏教の教えである。このサイクルは無限に続き、生命はさまざまな形態をとりながら存在し続ける。この過程において、仏教は六道と呼ばれる六つの異なる世界を教えられている。これらは、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、そして天の六道がある。各道は、生きとし生けるものが生まれ変わる可能性のある異なる状態や領域を示されている。
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目が覚めるとそこは広大な草原だった。
「あれ?私たしか眠っていたんじゃなかったっけ?」
確かに私は眠ったいた。病室で愛する旦那に見送られながら。
「もしかして、死んじゃったのかな?」
私は、末期の癌で余命が半年と医者に言われていた。愛する彼は最後まで私を見守ってくれていた。それが嬉しくて不思議と恐怖を感じていない。
「お父さんもここに来たのかな。」
父も同じく癌で死んでしまっていた。若かった私は、父と喧嘩別れしていて死に目に会いに行かなかった。今ではそれも少し後悔している。母は父が亡くなってから毎日泣いていた。私はその姿を見ても何も声をかけることが出来なかった。
「ここにいてお父さんに会えたなら、もう一度ちゃんと話したいな。」
そう思ったがあることに気づいた。
「誰もいない。死んだら川があるとか船乗るとかじゃないの?」
果たして私は本当に死んだのだろうか?周りには誰もいなくて、緑の草っぱらに白い小さな花がところどころ咲いているだけだ。
「どうすればいいんだろう?」
ここに来てから疑問ばかりだ。怖くはないけれど、どうしていいのかわからない。少し歩いてみることにした。
「家?というか不動産屋さん?」
何分歩いたのだろうか。感覚的には一分程度だと思う。そこには生きていた世界で言う、不動産屋さんのような建物があった。開かれている窓には黄色い物件のようなものが貼ってある。
「あれ?でも家じゃないな。牛1000万ポイント。ライオン450万ポイント。なんのこと?」
貼られている紙には物件ではなく生き物の名前と数値とポイントが書かれている。また、その数値も生き物によって違うことがわかる。
不思議そうに眺めていると、ドアが開いた。
「お待ちしておりました。美羽様。」
その建物から出てきたのは、レトロな喫茶店にいそうな初老の紳士だった。
「あ、すいません!ってなんで私の名前知ってるんですか?」
「ここに訪れる方は運命で決まっているのです。何日何時何分にこの世界に来ることは、神様から私に伝達がきますので。」
そう言って彼はにこりと笑った。
「「ここはいったいどこなんですか?私って死んじゃったんですか?」
「落ち着いてください。まぁ、中へどうぞ。」
そう言って彼は戻っていった。私も続いて建物の中に入る。
 中に入ると彼はなにか書類を手にして座っている。乱雑にファイルが置かれているがきたなさはかんじない。アンティークな家具などがレトロな雰囲気を醸し出していた。そして彼の後ろには【来世不動産】と書かれていた。物珍しくてきょろきょろとしていると彼が口を開いた。
「どうぞおかけください。コーヒーはミルクと砂糖はどうしますか?」
「あ、失礼します!コーヒーは甘めで!」
彼はまた、にこりと笑ってミルクと砂糖をたっぷりと入れてくれた。
「いただきます。」
一口飲んでみるととても美味しくて心が落ち着く。
「美味しいです!あ、そうじゃなくてここはいったい何なんですか?」
「もう御察しでしょうが、ここは死後の世界です。あなたは末期の癌で、2028年7月28日20時18分17秒に亡くなってしまいました。と、神様から送られてきた天命記に書かれています。」
彼は手にした数枚の書類の束の1枚目を見ながら答えた。
「やっぱり私、死んじゃったんですね。」
改めて自分の死を理解するというのは辛かった。しかし、彼はそのまま続ける。
「皆様、自分の死を理解するのには時間がかかります。ちなみに美羽様は、人が亡くなった時どうなると思いますか?」
「えっと、三途の川を渡って閻魔様に生きてた時の事を見られて地獄に行くか天国に行くか決まるみたいな?」
なんかのテレビで聞いたことを話した。
「たしかに現世ではそう教わるかもしれませんが、実は違います。」
地獄や天国はないと言われてしまった。
「むしろここに来る人によっては、人生きる世界現世が地獄や天国になるわけです。」
「すいません。行ってることがわからないのですが、何よりもここは何なんですか?来世不動産って?」
少し彼のゆったりとした説明に苛立ちを覚えてしまい、語気を荒げて聞いてしまった。
「そうですね。ここは来世不動産。あなたはここで来世何に生まれ変わるのかを決めて貰います。」
「生まれ変わり?来世って私はまた生き返れるんですか?」
また、大好きな人のいる世界に生き返れるかもしれない。そんな期待を胸にしていた。
「生き返るわけではありません。また現世で生として新しいスタートを切るのです。」
「はぁ、また美羽という人間になれるわけではないんですね。」
「そうですね。また、人間になれるかどうかもわかりません。別の動物になる方もいれば、虫になる方もいらっしゃいます。」
生まれ変わりとは人間だけではなく生のある万物全てのものになる可能性があるそうだ。
「えっと、あんまりわからないんだけどどうやって決めるんですかね?」
「先ほど美羽様がおっしゃっていた通り、生きていた時の善悪や行いで決まります。良いことをしていればポイントが加算、悪いことをしていればポイントは減っていきます。そして亡くなられた時までに溜まったポイントで来世になれるものを選べると言わけです。」
怒涛の説明で頭は追いついていないが、今までやってきた行いでポイントが溜まり、そのポイントによって次の人生が決まるという事だろう。
「ここで次何になれるか選べるという事ですか?ちょっと現実味がなくてわからないんですけど。」
形態はわかっても、どうすればいいのかはわからなかった。
「皆様最初は同じような反応ですよ。」
彼はおかしそうに笑ってから続ける。
「それでも次は反応が違くて見ていて楽しいんですよ。特に、悪いことをした犯罪者の方などは青ざめていくのがわかるんですよ。もちろんポイントは溜まっているわけはなく、来世で地獄を見るんです。」
少し彼の笑みに恐ろしさを感じる。さっき言っていた現世が天国か地獄という意味がよく分かった。そして私はすぐに質問していた。
「あの!私のポイントはどのくらい溜まっているのでしょうか?」
「美羽様は2450万ポイントですね。とても高いポイントになっています!基本的にどんな来世先にも慣れると思いますよ。」
「そ、そうですか。」
正直なところポイントの平均がわからないからよろこんでいいのかはわからない。でも、彼の反応を見る限り本当に悪くはないのだろう。
「美羽様は心優しい方だったのでしょう。電車でお年寄りに席を譲られたり、落し物はしっかり交番に届けるなど小さな善行もありますが、元気だった際お仕事でデザイナーをやられていましたね。そこで造られた広告デザインが多くの方に見られて、認められたことが要因ですね。」
生きている時に感じられなかった達成感を死んでから感じることができるなんて皮肉なものだ。
「ちなみに美羽様は、希望の転生先などはありますでしょうか?」
「それはもちろん人間になりたいです。」
さっきの善行の話を聞いて、死んでからもう一度ちゃんと生きたいと思ってしまった。しかし返ってきた答えは残念なものだった。
「申し訳ありません。来世人間になるには2500万ポイント必要なので、50万ポイント足りていないんですよね。」
僅か50万ポイント足りない。私は来世では人になれないことが確定してしまった。
「そ、そんな。何とかならないんですか?」
「残念ですが、どうしようもございません。何件か美羽様にクレームもきていまして。蚊様から、ご飯食べていただけなのにいきなり殺されたという話もありましたね。」
「まさかそんなことで?」
虫に刺されたら痒くなるしみんな嫌がると思うけれど。
「そんなことですか。どんなに小さくても命は命ですよ。蚊様だって生きるためにやっていることですから。」
この世界ではどんな命も平等という事か。
「しかしそんな中でも50万ポイント下がっていたのには理由がありますね。」
「明確にあるんですか?いったい何なんですか?」
ぴったり50万ポイント減るなんてどういうことなのだろうか。それさえ間違っていなければ、もう一度人間として生まれることが出来たのに。そんな風に施行を巡らせていると、彼は続けた。
「お父様と喧嘩別れしたまま死別してしまいましたよね?こちらのような親子間での問題は神様本人がポイントを下げてしまうんですよ。親より先に死ぬ、喧嘩別れして親への感謝がないなどはポイントが下がる要因になります。」
そんな、私は後悔してもう一度ここで会いたいと思っていたのに、死んでしまってからでは後悔しても意味がないという事なのだろうか。
「父に会うことはもう叶わないのでしょうか?」
「そうですね。お父様は、勝義様ですが既に輪廻転生して来世での生活を送ってらっしゃいますね。」
「いったい何に変わったんですか?」
「申し訳ありません。こちらほかの方の情報を公開することはできないのです。」
「そうですか。」
父のせいで私は人間になれないのか、私自身のせいで人間になれないのかはもうよくわかっていない。あれだけ自分より大人の人間から親を大切にと言われてきて疎ましく思っていたが、ここに来てようやくそれを理解するなんて。
「人間にはなれませんが、ほかの人気な動物などにはなれるかもしれないので。」
「かもしれないと言いますと?」
「現世には、それぞれの数が決まっていまして、人気ですでに上限に達してしまいますとその天性先には行けなくなることがあります。」
「なるほど。あ、パンダとかどうなんですか?可愛いししっかり面倒見てもらえそうですし!」
渡されたファイルにはパンダ2200万ポイントと書かれていた。
「申し訳ありません。すでに上限まで達してしまっていまして。」
「あ、そうですか。」
「牛とかどうですか?寝て食べるだけで優雅な日々を送れますよ。」
「でも、最後食べられちゃうんですよね。」
死ぬ理由が決まっている生活なんて送りたくない。生きている時はこんなこと考えたこともなかった。それからたくさん紹介されたがなかなか決まらずにいた。
「そういえば、今おすすめなのは蝉なんですよ。」
「蝉?あの夏にミンミン鳴いている蝉ですか?」
「そうです。蝉は生まれてから地上に出るまで長い間地中にいて、いよいよ外に出ても短い生涯なのであまり人に迷惑をかけないで済むのでもう一度ポイントを貯めてさらに来世にかける方もいるんですよ。」
「なるほど。」
色々と考えて今回は縁がなかったから来世にかける、考えることが多くて「少しおかしくなっていたのか私は、
「蝉になります!次の来世では人間になれるように!」
「承知いたしました。それでは素敵な蝉生をお送りください。」
そして私の意識は闇に落ちた。

「お待ちしておりました。」
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「そういえば余生は静かな場所で過ごしたかったのに蝉がうるさいしおしっこまでかけてきて最悪でした。」
「クレームですか。承知いたしました。後日伝えておきます。」