大きな余震が続く中、みんな身体を寄せ合って、倉庫みたいな所で焚き火をして過ごしていました。
sketch book-CA3F1275.jpg
 
 
割と大きめな焚き火の周りに集まり暖をとりました。
火番が必要だったので、その役をかってでました。
もう半日位、雪降りしきる極寒の中、高いヒールで立ちっぱなしでつま先は感覚がなくなっていました。
 
それでも、ぐったりしている周りを見ると、何としても気丈に振る舞わなければいけないと、どこかで感じていた私
話す気力なんか無くても、立ちながら火番をする事で
誰かの役にたちたかったのです。
 
 
 
そして、夜がふけ
誰から言い出したのかわからないけど、いつの間にか就寝する事になりました。
さっきの崖のような所の下にあった駐車場に停めてあった車にそれぞれ身を寄せ合い
私は幸いにもニッサンのワゴン車の試乗車に乗せていただいて、少なくとも狭い思いをすることなく過ごせました。
 
ただ、問題だったのは
試乗車
だったという事。
試乗車には、あまりガソリンが入っていませんでした。
すぐにガソリンは尽き
暖房がつかなくなって、どんどん車内の気温も下がっていきました。
 
 
気を張っていたせいか
寒かったせいか
余震が続いていたせいか
あるいは全部か
なかなか寝付く事ができず
 
結局30分位しか寝れていないような感じでした。
 
妙にきれいだった、怖い位に静かだった夜空。
 
 
頭をよぎるのは、家族の顔、親友の顔、親友との約束、彼氏の顔。
早く、早く、みんなに会いたかった。
 
 
 
 
そんな事を考えていたら、いつの間にか夜があけていました。
 
明るくなって辺りを見てみると
半日前に通っていた道には、毒々しい色のヘドロがふくらはぎ以上の高さまで積み上がり
私が追い越してきた車は無数に横転、衝突していて
大きなトラックは横たわり道をふさぎ
電柱は根元から折れていました。
sketch book-CA3F1277.jpg
sketch book-CA3F1268.jpg
目の前にあった薬局の一階は骨組みだけを残し、吹き抜けになっていました。
 
悲惨な状況としか言えませんでした。
そこには見知った風景は微塵も残っておらず、ヘドロからは異臭が漂っていました。
 
薬局から流れ着いた食料を各々調達し、倉庫に持ち帰り
少しずつ食べる事にしました。
 
 
 
それでも、不思議とお腹は減りませんでした。
それよりも、帰った時に、みんなに食べるものをあげたかったので
私に配られた食料は全て食べずに鞄に入れました。
 
朝から晩まで空を飛び回る、自衛隊だかマスコミだかわからないヘリコプターに向かって
全身を使って助けを大声で叫びました。
それでも、どこに降りるでもなく、誰を助ける訳でもなく、空を飛び回るヘリコプターに絶望を味わいました。
 
 
そうしているうちに、日が経ち
寝起きを共にしていたおばさんが迎えが来ると信じていた私を半ば無理やり説得し
朝早く、自分の荷物をまとめて、出発しました。多分7時かその前位だったように思います。
私が目指したのは、母親から最後の連絡があった時に言っていた 鷹来の森。
 
私がいた所から車で向かっても大体40~50分かかるような所です。
 
殆どの道が冠水し、通れなくなっていて
帰り道を模索しながら、少しずつ前に前に進みました。
途中おばさんとも別れ、大型スーパーで食料を無料配布していたのでそれを調達し
 
靴ズレで覚束なくなった足で、目的地まで歩きます。
途中、親切なお姉さんに車で目的地まで乗せてもらいました。
そこで、一生懸命母親と妹の車を探しましたが
 
残念ながらみつかりませんでした。
 
同じような名前の場所があるので、もしかしたら聞き間違えたのかと思い、そこまで移動しました。
 
 
頂上まで登っても、探している車と人は見つからず
そこで自衛隊の人と出会い、車に乗せてもらい、近くの避難所を全てまわりました。
 
どんなに探しても探しても、待ち受けているのは絶望ばかりで、泣きたくなる衝動を必死について堪え、次々まわりました。
 
途中、寄った避難所で
少しだけでも休憩するように!と強要され
貴重であろう水をいただいた時、
 
 
『大変だったね、すごく泣きそうな顔してる』
 
『…ありがとう、ございます』
 
自覚はありませんでしたが、相当顔に出てたんでしょうね。
確かに色々と考えたし、身体使いすぎてたのに、ちゃんと休めていませんでした。
 
 
だけどまた、その避難所にも、お母さんも妹もいませんでした。
 
そして泣くように縋った最後の避難所。
 
そこには、おばあちゃんの名前が書いてあったのです。
 
 
奇跡かと思いました。
見間違いなんじゃないかって、何度も何度も見返しました。
でも間違いなんかじゃなくて
 
 
嬉しくて嬉しくて、ただ嬉しくて
動かない足を、力の限り動かして、妹と母親の車を探しました。
 
感動、としか言いようのない再会。
言葉にならない思いが、目から溢れて
声をあげて泣きました。
 
そして、力が抜けたのか
私の足はしばらく動きませんでした。
 
気が付けば、辺りはもう真っ暗になっていました。