「サイバーパンデミック」は始まっている? 世界で相次ぐ異常事態
新型コロナウイルスによるパンデミックから、私たちは何を学んだのだろうか。
感染症が広がれば、人の移動が止まり、物流が滞り、店舗が閉まり、経済活動そのものが大きく制限される。
しかし、もし同じことが「コンピューターの世界」で起きたら――。
その影響は、さらに大きくなる可能性がある。
「COVID-19より大きな混乱になる可能性」
2020年、世界経済フォーラム(WEF)の創設者クラウス・シュワブ氏は、サイバー攻撃によって電力、交通、病院などが停止し、社会全体が機能不全に陥るシナリオについて警告した。
その中で、大規模なサイバー攻撃が起きれば、COVID-19による危機さえ「小さな混乱」に見える可能性がある、という趣旨の発言をしている。
同じ2020年には、WEFのサイバーセキュリティ関連イベント「Cyber Polygon」も開催された。
テーマは、「デジタル・パンデミック」の防止。
世界29か国から120の組織が参加し、大規模なサイバー危機への対応訓練が行われた。
もちろん、これは「将来起きる攻撃を予告した」という話ではない。
あくまで、デジタル社会が抱えるリスクを想定した訓練だった。
しかし――
6年後の現在、世界では実際にサイバー攻撃や重大な脆弱性によって、行政やインフラが停止する事例が相次いでいる。
英国で政府サービスが相次いで停止
2026年10月、世界中で広く利用されているPHPというプログラミング言語に、非常に重大な脆弱性が発見された。
英国では、政府が緊急対応。
32の政府サービスが利用できなくなり、さらに4つのサービスが部分的に停止した。
重要なのは、これが「英国政府がハッキングされた」という単純な話ではないことだ。
攻撃を受ける前に、危険性のあるシステムを一時的に停止し、アップデートや対策を行ったのである。
つまり、
「攻撃されたから止めた」のではなく、「攻撃される可能性があるから止めた」
ということだ。
そして、この問題は英国だけのものではなかった。
スペインでも行政システムを一時停止
スペインでも、このPHPの脆弱性への対応として、一部の行政サービスを一時停止する措置が取られた。
現地政府は緊急警告を受け、脆弱性のあるサービスを停止。
安全性を確認したうえで、段階的に復旧する方針を取った。
一つ一つを見れば、決して「世界がサイバーパンデミックに突入した」と言える状況ではない。
だが、別の見方もできる。
社会の重要な部分が、すでにサイバー空間への依存なしには動かなくなっている。
本当に怖いのは「物流」が止まったとき
例えば、サイバー攻撃によって企業のウェブサイトが見られなくなるだけなら、生活への影響は限定的だ。
しかし、
電力。
通信。
銀行。
決済。
港湾。
鉄道。
トラック輸送。
倉庫。
コンビニやスーパーの在庫管理。
これらが同時に影響を受けたらどうなるだろう。
EUは2026年、鉄道と海運を同時にサイバー攻撃される想定の大規模訓練を実施している。
想定では、港湾の物流が停止し、鉄道網も麻痺。
貨物や人の移動が大きく遅れるというシナリオだった。
つまり、各国政府はすでに、
「サイバー攻撃によって社会インフラそのものが止まる」
という事態を現実的な危機として想定している。
日本で起きたらどうなるのか
日本は、海外から大量の物資を輸入している。
そして、それらを港、鉄道、トラック、倉庫、店舗へとつなぐ物流システムは、コンピューターによって管理されている。
もし広範囲のサイバー攻撃によって物流システムが機能しなくなれば、
「商品がない」
というだけでは終わらない。
金融システムまで障害を受ければ、銀行口座からの送金や電子決済にも影響が出る可能性がある。
通信が止まれば、企業同士の連絡そのものが難しくなる。
電力や水道などの重要インフラまで影響を受ければ、事態はさらに深刻になる。
そうなれば、政府はCOVID-19のときとは違った意味で、より強力な緊急措置を迫られる可能性がある。
そして興味深いのが、
「お金があっても、物が買えない」
という状況だ。
銀行や決済ネットワークが停止すれば、現金以外の決済手段が使えなくなる可能性がある。
物流が止まれば、そもそも店に商品が届かない。
つまり、
経済活動そのものが一時的に機能しなくなる。
これは「次のパンデミック」なのか
もちろん、現在起きている出来事を「サイバーパンデミックの始まり」と断定することはできない。
今回の英国やスペインの対応も、重大な脆弱性に対する予防措置だ。
しかし、2020年にはすでに「デジタル・パンデミック」という言葉が使われ、大規模なサイバー危機への備えが始まっていた。
そして今、世界はさらにデジタル化している。
物流も。
金融も。
交通も。
行政も。
医療も。
私たちの日常生活さえも。
もし感染症が人から人へ広がるのだとすれば、サイバー攻撃はシステムからシステムへ広がる。
しかも、その速度はウイルスより速い可能性がある。
だから本当に怖いのは、一本のウェブサイトが落ちることではない。
社会を動かしている「見えないネットワーク」そのものが止まることなのかもしれない。
COVID-19は、世界の弱点を見せた。
では次に、その弱点を突くのが「ウイルス」ではなく「コード」だったとしたら――。
そのとき私たちは、どこまで日常生活を維持できるのだろうか。