守らなきゃいけないけど、守りすぎてもダメ~著作権の話~ | Hibikillaオフィシャルブログ「ソコが丸見えの底なし沼」Powered by Ameba

守らなきゃいけないけど、守りすぎてもダメ~著作権の話~

毎度です。

今月18日に調べ物をしようと英語版ウィキペディアに飛んだら、こんな↓真っ黒な画面が出てページが見れなくなっていました。


これはアメリカ下院議会で審議されているStop Online Piracy Act (オンライン海賊行為防止法SOPA)に抗議してのものであった。日本のマスコミではあまり扱いが大きくなかったように感じたが、インターネットメディアは敏感に反応して、GoogleやFacebookもこれに抗議しました。(SOPAやPIPAに対する抗議行動が拡大、Facebookも反対表明  :日本経済新聞CNN.co.jp:ウィキペディアやグーグル閉鎖、米海賊防止法案に一斉抗議 2012年1月19日

匿名ハッカー集団のアノニマスも以下の声明を発表し、アメリカレコード協会(RIAA)などのサイトを攻撃しました。

  

では何が問題なのか。もしこの法案が議決されると、
  • 著作権侵害コンテンツを含むサイトへのアクセス遮断をISPに命令できる(DNSブロッキングなどによってISPが通信を遮断するようになる)
  • 著作権侵害コンテンツが1つでも含まれていればサイト全体を停止できるとも解釈可能な表現になっている
  • 著作権侵害コンテンツへの資金提供を停止させる(GoogleなどのAdネットワークや、PayPalやVisaなどに対して、著作権侵害コンテンツを含むサイトとの取引停止命令を出せるようになる)
  • 検索エンジンの検索結果から著作権侵害コンテンツを含むサイトの削除を命令できるようになる
  • 著作権侵害コンテンツのホスティングだけではなく、著作権侵害コンテンツへのリンクも対象


というわけで、出典として多様な著作物が引用されているWikipediaはアウトかも知れないし、Youtubeの動画を貼るようなブログも下手したらアウト(ここは日本で今のところ影響はないですが)ってことになってしまうかも知れない。(なぜWikipediaは停止するのか――SOPA抗議活動をひもとく - @IT

この問題の根は深く、コンテンツ大国アメリカ合衆国では伝統的に、著作権保護を徹底したい映画・音楽・ソフト会社などのコンテンツ産業と、著作権を保護しなかったり、あるいは新しい著作権のあり方を提案する新興のIT・WEB産業が長らく利害対立しています。そしてこの対立はもちろん音楽にも影響を与えています。

みなさまご存知の通り、ヒップホップ音楽は主に楽器演奏ではなく、ブレイクビーツやサンプリングという、既存の音楽を再利用・再構築する手法で音を作ってきましたが、1990年代後半~2000年くらいからこうした手法をとるヒップホップ楽曲はだんだんと減ってきています。

 なぜならば、このニュース( カニエ・ウェストら有名アーティストが無断サンプリングで訴えられるbmr2008年5月24日)のように、アーティストがサンプリングの元ネタの権利所有者から多額の著作権使用料を請求されることが相次いだためです。さすが訴訟大国アメリカです。サンプルネタを発見しては訴える「サンプル・クレーム」がある種のビジネスになってしまったんですね。

これについてヒップホップ・プロデューサーのRZAは「All I Needという良い曲があった。俺達はコーラス部分をサンプリングした。でもビートは原曲とは全く無関係だし、メソッドマンのリリックもアレンジも無関係だ。原曲から使用したのはフックのサンプルのみ。しかもメソッドマンのアルバムバージョンではサンプル・フックすら使われていない。彼が歌っているだけだ。でも彼ら(メジャーレコード会社)は曲の売上の90パーセントを要求してきた
今もサンプリングで日々トラックは作るが、それらは決してリリースされることはなく、もはや「個人の楽しみ」として聴くだけだ」と証言しています。(ミュージック・マガジン2012年1月号より)

では問題の曲、Method Man「All I Need」(1994, Def Jam)を聴いてみましょう。

シングルバージョン:Method Man Ft. Mary J. Blige - You're All I Need(Marvin Gaye & Tammi Terrell "All I Need To Get By"をサンプリング)
アルバムバージョン:Method Man - All I Need 

…アルバムバージョンはリフのメロディをキーボードで弾きなおしてますが、確かにサンプリングではない。これで90%を要求されるんじゃたまったもんじゃありませんね。

そんなわけで1990年代後半から2000年くらいから、ヒップホップのサウンドがティンバランド、ネプチューンズなど、楽器演奏中心のものに変化していったのは、流行、機材・プリセット音源の進歩などももちろんありますが、権利(クリアランス)トラブルという側面も多分にあったのです。

俺がメインにやっているレゲエもトラックの使いまわし、ダブ、リメイク、あるいはカバー曲がとても多いジャンルです。日本やアメリカの法律では完全アウト、しかも元々はコスト削減から始まったこうした手法は一方でレゲエならではの音楽的発展の大きな部分を担ってきました。もし著作権が厳格に管理されていたら今のレゲエ(…ってことはもちろんヒップホップや他のダンスミュージックも)は生まれてなかったに違いありません。ただし、ジャマイカではそのお蔭で食えない大物ミュージシャンが多かったりと良いこと尽くめでもない…印税くらいすこしは払ってやれよ、とも思います。

ということで、守らなくちゃ文化がダメになる、しかし規制しすぎても文化がダメになってしまう著作権は本当に難しい問題です。法的に緩すぎると中国みたいにパクリが横行してしまう反面、ジャマイカのようにそれによってイノベーションが生まれる場合もある。逆に規制がきつ過ぎるとアメリカのように権利者や原作者は保護されるけど、自由な表現や創作が阻害されてしまう、あるいはWikipediaもFacebookも法律違反なんて判決が出てしまう虞もあるのです。皆さんは日本ではどうすべきと思いますか?

俺は…多くの曲をサンプリングで作って来たし、「Legal Rights」という曲でうたっているとおり、著作権を守りすぎるのはよくないと考えていて、著作権侵害に対する抗弁になりうるフェアユースが日本でも法制化され、同時に新しい著作権の概念であるクリエイティブ・コモンズ(CC)がもっと広まればいいと思っています。

そんなわけで、久々の長文でした。

今日はこちらのトークイベントに出演します。君も俺達と語り明かしましょう。よろしくお願いします!

1月20日(金)

斬る!K DUB SHINE_自主規制なし2012_
@新宿 LOFT PLUS ONE

住所:新宿区歌舞伎町1-14-7林ビルB2
料金:前売\1500 / 当日\2000(共に飲食代別) ※前売券はローソンチケットにて1月10日より発売予定!! Lコード【38298】
OPEN:OPEN / 18:30 START / 19:30
会場URL:http://www.loft-prj.co.jp/PLUSONE/
トークショーK DUB SHINE / DELI / Hibikilla / 制服向上委員会 and more
司会マキタスポーツ


ラッパー「K DUB SHINE」が久しぶりにロフトプラスワンに登場! 多彩なゲストを迎えて激動の2011年を振り返りつつ、ジャンルの幅を越え縦横無尽に新年を大胆予想! 今年気になる、あんなことやこんなこと“渋谷のドン”と一緒に話してみませんか?!