レゲエにおける「右」へのざっくりとした考察 | Hibikillaオフィシャルブログ「ソコが丸見えの底なし沼」Powered by Ameba

レゲエにおける「右」へのざっくりとした考察

レゲエ以外の音楽関係者と話をしていると、しばしば「日本のレゲエシーンには、右よりの思想をお持ちの人が多くないですか?」という質問を受けることがある。うーん、Mikidozan氏の「Japan 一番」のヒット以降、所謂ジャパレゲシーンが盛り上がりを見せたことや、王道リリックの一つである所謂「レペゼンネタ」の曲も他ジャンルに比べればその比率は非常に高いわけで、外部から見ると確かにそんな印象もあるのかもしれない。

ただ、個人的には右派(または左派)を自称しているレゲエ関係者にはほとんどお会いしたことがない。たまに、この人は右(または左)の思想をお持ちかなー…という方と会話する機会もあるのだが、そういう方のほとんどは「私が真ん中なんであって、世間が左すぎる(または右すぎる)」と考えているに過ぎない。ので厳密には「右の人」とは言えない。というか言ってはいけない気がする。人種や国籍と同様に、思想や信条をもってある人を決め付けることで、その人とのコミュニケーションが良好になることは恐らくないと思うからだ。

さらに、この国では「右」という言葉も結構曖昧に使用されていると言うことも忘れてはならない。保守派としての右なのか、民族派としての右なのか、さらには尊皇なのか攘夷なのかって言うのはそれぞれ大きく異なる思想だ。右、左の概念が生まれたフランスと日本は歴史的事情が異なりまくるわけで、これは致し方ないことだが。

さて、本題に入ります。ジャマイカのレゲエを見ても(聴いても)、1990年代以降の作品にはジャマイカの「くに(国、邦)」を称えるものも少なくない。古くはボブスレーネタ(1988年カルガリー五輪)、サッカー(1994年サッカーW杯アメリカ大会でのレゲエボーイズ)ネタ、最近だとウサイン・ボルトなどスポーツに「ジャマイカン・プライド」を仮託するものも含めるとかなりの数があると言っていいと思う。

しかし、1970年代のルーツレゲエの時代には「ジャマイカ=バビロン」であり、「アフリカ=ザイオン」に帰還せよ、というメッセージが主流であったはずだ。ボブ・マーリーも「アフリカよ団結のときだ、俺達はバビロンを去り、父の大地に向かっているんだ」"Africa unite 'Cause we're moving right out of Babylon, And we're going to our Father's land"(Bob Marley & the Wailers「Africa Unite」より)と歌っていたではないか。このレゲエのリリックにおける左右の逆転現象はいつ、どのようにして起こったのだろうか。

日本におけるレゲエ及びジャマイカ文化研究の第一人者であり、現在は関西学院大学教授である鈴木慎一郎先生によれば、ジャマイカのレゲエアーティストがジャマイカをバビロンではなく、愛着ある生まれ故郷として明示的に称え始めたのは、1980年代後半から1990年代前半のことであり、中でも象徴的なのは1987年リリースのJosey Wales「Nah Lef Ya」(視聴:http://www.reggaecollector.com/detail/index.php?searchstyle=detail&number=416166)と、1993年リリースのTony Rebel「Sweet Jamaica」であるという。

Tony Rebel - Sweet Jamaica lyrics

特に「Sweet Jamaica」は、本来バビロン=ジャマイカからの脱出を主義とするはずのラスタファリアンが「素晴らしきジャマイカ」を歌った嚆矢という意味で、エポックメイキングな曲なんではないかというわけです。

で、俺はこの1980年代後半から1990年代前半 ― ジャマイカが1960年代の独立期から、ラスタファリ運動の隆盛を経て、再びナショナルアイデンティティを取り戻したといえる時期 ― に多くの日本人アーティスト、サウンドマンがジャマイカを訪れ、そこで生のジャマイカに触れ、現在のジャパレゲシーンの基礎を築いたということに大きな意味を見出します。

もし、ルーツレゲエが席巻する1970年代のジャマイカにもっと多くの日本人が訪れていたならば、俺は何度も「日本のレゲエシーンには、左よりの思想をお持ちの人が多くないですか?」という質問を受けていたかも知れないなと思います。そして、ジャマイカ賛歌を歌うアーティストも、本質的にはバビロン=ジャマイカからの脱出を宗とするが如く、一見「右」に見える日本のアーティストも、本質的には「右」であるとはいえず、寧ろ「左」である可能性すらあるのかもしれないな、と思うのであります。

…なんとなく尻切れな感じだなー。著作権の関係で日本のレゲエのリリックをブログに載せにくいのと、ヒップホップなど他ジャンルを併せて考察してないのと、ヤンキー文化とのからみを踏まえていないからだなーこれは。と思うんだけど、またいつか何らかの形に出来ればいいと考えているので今回はここまで、でご容赦下さい。ついでにちょっと前の曲だけどHibikilla feat. Jumbo Maach「あっぱれJapan!」もチェック宜しくです。Jah!

参考文献
レゲエ・トレイン―ディアスポラの響き/鈴木 慎一郎

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関東ラガマフィン/大石始

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『レゲエマガジン』『Strive』『ROVE』各巻。
右翼と左翼 (幻冬舎新書)/浅羽 通明

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