稼働状況:社長が新型を買ってくれるはずがない。
ハンドルを握る手にグッと力が入るタイミングは割とある。
内容にもよるけれど、ここ最近でいえば元恋人との再会がそうだ。
意外な場所での再会だった。
嗚呼・・・つくづく因果な稼業でござんすなぁと思った。
自分の場合は別れた瞬間に連絡先を消し、何か頂き物があれば迷わず捨てる。
思い出も一緒に捨てるから、何も残らない。
別れはいつもドライだから、二度と会いたいとも思わない。
正直顔も名前も思い出せない人も居る。
でも完全にリセットになったわけじゃない、心や脳の片隅に残っているものもあるだろう。
それが何かのきっかけで蘇る場合もある。
そして今回。元恋人とエンカウント。
同じ業界だ、運ぶ物が違おうがいつかどこかで会うこともあるだろう。
逃げられなかったので仕方なく対峙。
脳内BGM はFFⅥの決戦。マジでこれが流れた。
見て見ぬふりをして去って欲しかった。
ムカデに出会った時みたいに叫んで逃げて貰って構わんよ。
だがそうもいかなかった現実に深い溜息。
自分は真顔で頭を下げる。相手の顔から笑顔が消えて、少し躊躇いの色。
相手は何か言おうとするのだが、何も出てこない。
自分は自分で「急いでいるんで、失礼します」と言って頭を下げてその場を後にした。
トラック洗ってやれよと言おうかと思ったけれど、言えなかった。
いつも、これからも一緒に居るのなら大事にしてやってくれ。
軽い挨拶や他愛の無い会話、作り笑顔・・・やろうと思えば出来ただろう。
だけどそんな気にはなれなかった。
顔を見て思い出した。忘れていた記憶が一気に溢れてきた。
あの冬、リンゴで忙しかった日々に寒さも感じなくなるくらいに怒りで心身共に燃えた事が何度も何度も起きた。
あぁイライラばかりに苛まれていたっけな。
仕舞にゃストレスで髪も抜けた。ご自慢の黒髪ロン毛が台無しよ。
そして人間性や性格は仕事にしっかり出ると思った。
荷物の扱いも恋人の扱いにも。
本質を見た。そして見極められなかった自分を悔いた。
決断は早かった、そして別れは必然だった。
厳しい態度で接したことは、本能がそうさせたと思った。
だけど悔いは無くあの時と同じように、振り返る事無くその場を去った。
心残りは奴の相棒だ。洗車してもらえるのだろうか。
一番一緒に居るのに大事にしていないとそれって伝わるもんだ。
そればかりが気になって仕方が無かったが、走り出したらそれもスッと消えていった。
ハンドルを握る手に力が入ったが、もう過去の事だと言い聞かせて力を抜いた。
抱えきれない金にならない荷物は過去に置いてきた。
身軽だ。
結局一人が楽で仕方がない。
