6月の九州市民大学の講演は、リンボウ先生こと林望さんでした。
九州市民大学ホームページの講師紹介です。
作家・国文学者 林望氏
はやし のぞむ
今回のテーマは『『平家物語』のほんとうの面白さ-人間的な、あまりに人間的なこの軍記文学』
リンボウ先生のバリトン美声の講演、面白かったです。
「「平家物語」というと、古文の授業でイヤになった印象が残っているという人が多いです。「祇園精舎の鐘の声……」の書き出しや、那須与一の扇の的のシーンが出てくるが、「平家物語」の中でここはたいして面白くもない、どうでもいい箇所なのです。」という言葉から始まりました。この“つかみ”に会場がわきました。
それから、話が「平家物語」から離れます。
「日本文学は1300年の歴史があります。「古事記」は伝承文学、「万葉集」は涙なくしては読めない内容、もののあわれを表現した内容が含まれます。ヨーロッパではこの時期に人の心を描くような文学はありません。」
「書誌学という古い文学の研究をしていますが、日本は8世紀から印刷した歴史があり、中国では10世紀から活字の印刷が始まっています。グーテンベルグの印刷は15世紀です。アジア圏の技術はすごいのです。」
「文学の歴史は日本が世界一なのです。1000年前に書かれた「源氏物語」は最も素晴らしい文学です。本居宣長は、『源氏物語』の注解『源氏物語の小櫛』の中で、「日本文学史の最高峰であり、もののあわれなる筋がすばらしい、ひとりひとりの人物を見事に書き分けている」と評しています。」
「中国文学では絶対的な善玉と悪玉に分けた物語だけれど、「源氏物語」はそうではなく、人の心のまよいや乱れが見事に表現されています。人間の心の実相、不条理をありのままに書いています。」
そして、ようやく「平家物語」の話に戻られます。
「軍記物であり、生きている人間の実相、人間は簡単に忠義で死ねるものか、が描かれています。」
「「物語」というのは、「もの=魂、スピリット、精霊」のことを語っているのです。「もの」を使った言葉はたくさんあります。たとえば、「ものがなしい⇒魂がなんとなく悲しい」、「ものたりない」、「ものおもい⇒恋」、「ものすごい」、「ものごころがつく」。 “ハレとケ”がありますが、この“ケ”は穢れたという意味です。“もの”と一緒になると「もののけ」になります。」
「非業の死をとげた平家の人々の魂をなぐさめるため、すなわち、祟らないように語った軍記物が、「平家物語」なのです。」
「琵琶法師がお経のように語る「死者に対するとむらい」です。」
「いろんな人の死を描いています。源氏は平家の残党、祖先を徹底的に探し出して殺します。源氏がイスラム国のような残虐な集団に見えます。しかし、平清盛という独裁者が圧政で殺しまくったからで、清盛の死は仏罰が当たって熱を出して死んだと描かれています。逆に清盛の息子は正しい人として描かれています。この2人の描かれ方は荒唐無稽です。」
「しかし、そのあとの人々の描きかたは魅力がいっぱいです。平重盛の弟である宗盛(バカ殿として描かれている)、重盛の長男である維盛(これもり⇒光源氏のように美しい美男だが武将としては無能)、宗盛の弟である忠度(ただのり⇒文武両道)、そして知盛(平家を統率した人物)、重衡(しげひら⇒平家で一番もてた人)」
平家物語の人物の描き方をリンボウ先生は多くのエピソードをはさんでユーモアを交えて判りやすく説明され、面白く聴きました。
そして、リンボウ先生が彼らが登場する魅力的場面について、事前配付の平家物語の一部分(A3裏表1枚)から現代語訳で朗読されました。バリトンの美声にシビレながら聴きました。
私は古文は苦手で、読むのを避けていましたが、リンボウ先生の話を聴いていて、先生の現代語訳である「謹訳 源氏物語 全十巻」と「謹訳 平家物語 全四巻」は読みたいなと思いました。オーディオブック(フィービー)で先生の朗読を聴くのもいいだろうなと思いました。
お読みいただき、ありがとうございます。
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