林望講演『『平家物語』のほんとうの面白さ-人間的な、あまりに人間的なこの軍記文学』 | ヒズモのブログ

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6月の九州市民大学の講演は、リンボウ先生こと林望さんでした。

 

九州市民大学ホームページの講師紹介です。

作家・国文学者 林望氏

はやし のぞむ
 1949年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学・国文学。『イギリスはおいしい』で‘91年日本エッセイストクラブ賞など受賞多数。学術論文、エッセイ、小説の他、料理、能、自動車、古典文学等幅広く執筆し、特に古典の評解書には定評がある。バリトン歌手としても各地で活動する傍ら、新しい歌曲のための詩作も多い。観世流能楽実技を学び、各流能楽公演に際しての解説講演も多い。著書『旬菜膳語』『能よ 古典よ!』『リンボウ先生のうふふ枕草子』等多数。‘13年『謹訳源氏物語』全十巻で毎日出版文化賞特別賞。現在『謹訳平家物語』全四巻刊行中。

 

今回のテーマは『平家物語』のほんとうの面白さ-人間的な、あまりに人間的なこの軍記文学

 

リンボウ先生のバリトン美声の講演、面白かったです。

 

「「平家物語」というと、古文の授業でイヤになった印象が残っているという人が多いです。「祇園精舎の鐘の声……」の書き出しや、那須与一の扇の的のシーンが出てくるが、「平家物語」の中でここはたいして面白くもない、どうでもいい箇所なのです。」という言葉から始まりました。この“つかみ”に会場がわきました。

 

それから、話が「平家物語」から離れます。

 

「日本文学は1300年の歴史があります。「古事記」は伝承文学、「万葉集」は涙なくしては読めない内容、もののあわれを表現した内容が含まれます。ヨーロッパではこの時期に人の心を描くような文学はありません。」

 

「書誌学という古い文学の研究をしていますが、日本は8世紀から印刷した歴史があり、中国では10世紀から活字の印刷が始まっています。グーテンベルグの印刷は15世紀です。アジア圏の技術はすごいのです。」

 

文学の歴史は日本が世界一なのです。1000年前に書かれた「源氏物語」は最も素晴らしい文学です。本居宣長は、『源氏物語』の注解『源氏物語の小櫛』の中で、「日本文学史の最高峰であり、もののあわれなる筋がすばらしい、ひとりひとりの人物を見事に書き分けている」と評しています。」

 

「中国文学では絶対的な善玉と悪玉に分けた物語だけれど、「源氏物語」はそうではなく、人の心のまよいや乱れが見事に表現されています。人間の心の実相、不条理をありのままに書いています。」

 

そして、ようやく「平家物語」の話に戻られます。

 

「軍記物であり、生きている人間の実相、人間は簡単に忠義で死ねるものか、が描かれています。」

 

「「物語」というのは、「もの=魂、スピリット、精霊」のことを語っているのです。「もの」を使った言葉はたくさんあります。たとえば、「ものがなしい⇒魂がなんとなく悲しい」、「ものたりない」、「ものおもい⇒恋」、「ものすごい」、「ものごころがつく」。

“ハレとケ”がありますが、この“ケ”は穢れたという意味です。“もの”と一緒になると「もののけ」になります。」

 

非業の死をとげた平家の人々の魂をなぐさめるため、すなわち、祟らないように語った軍記物が、「平家物語」なのです。」

 

「琵琶法師がお経のように語る「死者に対するとむらい」です。」

 

「いろんな人の死を描いています。源氏は平家の残党、祖先を徹底的に探し出して殺します。源氏がイスラム国のような残虐な集団に見えます。しかし、平清盛という独裁者が圧政で殺しまくったからで、清盛の死は仏罰が当たって熱を出して死んだと描かれています。逆に清盛の息子は正しい人として描かれています。この2人の描かれ方は荒唐無稽です。」

 

「しかし、そのあとの人々の描きかたは魅力がいっぱいです平重盛の弟である宗盛(バカ殿として描かれている)、重盛の長男である維盛(これもり⇒光源氏のように美しい美男だが武将としては無能)、宗盛の弟である忠度(ただのり⇒文武両道)、そして知盛(平家を統率した人物)、重衡(しげひら⇒平家で一番もてた人)」

 

 

平家物語の人物の描き方をリンボウ先生は多くのエピソードをはさんでユーモアを交えて判りやすく説明され、面白く聴きました。

 

そして、リンボウ先生が彼らが登場する魅力的場面について、事前配付の平家物語の一部分(A3裏表1枚)から現代語訳で朗読されました。バリトンの美声にシビレながら聴きました。

 

私は古文は苦手で、読むのを避けていましたが、リンボウ先生の話を聴いていて、先生の現代語訳である「謹訳 源氏物語 全十巻」と「謹訳 平家物語 全四巻」は読みたいなと思いました。オーディオブック(フィービー)で先生の朗読を聴くのもいいだろうなと思いました。

 

 

お読みいただき、ありがとうございます。