概要
新潟大学脳研究所脳病態解析分野の松井秀彰教授、
同研究所病理学分野の柿田明美教授
、同研究所脳神経内科学分野の小野寺理教授らの研究グループは、
ミトコンドリアDNA(※1)が細胞質に漏出することで炎症反応や細胞死、
神経変性が惹起されていることを培養細胞や小型魚類などの様々な
パーキンソン病モデルで明らかにしました。
また、そのミトコンドリアDNAの細胞質漏出のセンサー阻害や細胞質ミトコンドリアDNAの分解促進により、
その病的な状態が改善することを見出しました。
このパーキンソン病の新しい病態メカニズムに関する研究成果が、Nature Communications誌に
2021年5月25日(日本時間)に掲載されました。
研究成果のポイント
- パーキンソン病の状態を模した培養細胞やゼブラフィッシュでは、
- ミトコンドリアDNAが細胞質に漏出していることを明らかにしました。
- 細胞質に漏出したミトコンドリアDNAのセンサーを阻害することや
- 細胞質ミトコンドリアDNAの分解を促進することにより、炎症反応や
- 神経変性が改善することを示しました。
- ヒトパーキンソン病剖検脳でも細胞質に漏出した
- ミトコンドリアDNAやそのセンサーであるIFI16(※2)の蓄積を認めました。
パーキンソン病にミトコンドリアの機能障害はどのように関与?
新潟大学脳研究所は5月26日、ミトコンドリアDNAが細胞質に漏出することで炎症反応や細胞死、神経変性が惹起されていることを培養細胞や小型魚類などのさまざまなパーキンソン病モデルで明らかにしたと発表した。この研究は、同研究所脳病態解析分野の松井秀彰教授、病理学分野の柿田明美教授、脳神経内科学分野の小野寺理教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。
画像はリリースより
パーキンソン病は運動障害やそれ以外の多彩な症状を呈する神経難病の1つであり、いまだにその病態には不明な点が多く残されている。パーキンソン病の病態にミトコンドリア機能障害やリソソーム機能障害が関わっていることは以前より示唆されてきたが、その詳細なメカニズムは不明だった。
ミトコンドリアDNAの細胞質漏出で細胞毒性・神経変性誘導、モデル細胞と動物で
今回、研究グループは、リソソーム中のDNase IIなどによる分解から逃れたミトコンドリア由来の細胞質DNAが、パーキンソン病を模す培養細胞およびゼブラフィッシュにおいて細胞毒性および神経変性を誘導することを報告した。
細胞質漏出ミトコンドリアDNAのセンサー阻害や分解促進で炎症や神経変性が改善
培養細胞では、パーキンソン病に関連する遺伝子であるPINK1、GBA、またはATP13A2の減少は、ミトコンドリア由来の細胞質DNAの増加を引き起こし、I型インターフェロン応答と細胞死を誘導した。これらの表現型は、DNAを分解するリソソーム内のDNA分解酵素であるDNase IIの過剰発現、またはミトコンドリアDNAのセンサーとして機能するIFI16の減少によって改善した。
パーキンソン病モデルとして用いられるゼブラフィッシュの1つであるgba変異体においても、ヒトDNaseIIを過剰発現させることにより、その運動障害とドーパミン作動性神経の変性が改善された。
ヒトパーキンソン病剖検脳でもIFI16と細胞質漏出ミトコンドリアDNAを確認
IFI16およびミトコンドリア由来の細胞質DNAは、パーキンソン病患者の剖検脳の病変部位において蓄積を認めた。
以上の結果は、ミトコンドリアDNAの細胞質への漏出がパーキンソン病の神経変性の重要な原因となる可能性を示唆するもの。細胞質に漏出したミトコンドリアDNAの分解、あるいはそのミトコンドリアDNAセンサーの阻害が、パーキンソン病の治療につながる可能性がある。また、パーキンソン病以外の疾患でも同様のメカニズムが存在する可能性があり、研究グループは、引き続き検証を進めるとしている。