「星岡茶寮時代、
わたしのところへ料理人が来ると、
君は飯が炊けるかと第一に聞いてみる。
なかなか自信をもって、
答のできるものはいなかった。
とにかく、
飯は最後のとどめを刺すものであり、
下戸には大事な料理である。
料理をするほどの者が、
自信をもって飯が炊けないということは、
無茶苦茶な振舞であり、
親切者とはいえないことになる。
それにもかかわらず、料理人は
自分の苦労の足りなさを棚に上げて、
飯を炊くということは、
なにか自分の沽券(こけん)に
かかわるものの如く考えているらしい。
・・・・・
料理人は飯なんてものは、無意識のうちに
料理ではないと考えているらしい。
ところが、
飯は料理のいちばん大切なものなのである。
料理ではないと思うところに
根本的に間違いがあり、
まずい飯ができるのである。
洋食でパンの良否を問題にしたり、
焼き方を問題にしたりするのと
全く同じなのである。
だから、
飯は料理ではないという考えを改め、
立派な料理だと考えなければならない。
私は断言する。
飯の炊けない料理人は
一流の料理人ではない。
主婦、女中、飯炊きについても
同じことがいえるのである。」
北大路魯山人(昭和22年)
