「 こんばんわ 」
*キャスト*
戸田 洋一 (♂):物静かなミステリー作家。
夜更けに訪ねてきた人物にどことなく見覚えがあるようだが・・・
29歳。
戸田 エリカ(♀):洋一の妻。彼を支えることに生きがいを感じている。
明るくておっとりした性格。しかし・・・
27歳。
橋本 潤 (?):性別がわからないほど美しい人物。機械的な話し方で、感情の起伏が小さい。
だが感情が無いわけではなく、外に出ずらいだけ。
外見年齢18~25歳ほど。
ナレーター (?):静かに物語の輪郭を語る人物。抑揚は無い方が雰囲気がある(と、思う)
潤 「 こんばんわ 」
ナ 玄関のチャイムが鳴ったことで眠りの妨げられた洋一は、目の前の真っ白な顔をした美しい人物を
見て目を見開いた。夜の闇に浮かぶその顔は、なぜか見覚えがあったからだ。
研ぎ澄まされた鋭利な刃物のような漆黒の瞳、白磁の肌、人形にも思えるくらい完成した姿のその
人物に。
しかし、これほど美しい人を忘れてしまうなどあるのだろうか・・・洋一は視線をその人物に合わ
せる。
潤 「こんばんわ、ご主人」
洋 「えっ、あぁ、こんばんわ・・・ご主人、て私のことですか・・・?」
潤 「ええ、勿論。少しお話があるのですが・・・」
洋 「こんな時間にですか・・・いえ、少し待ってくださ・・・」(エリカ被せる)
エ 「洋一さん?どうしたの・・・?あ、お客様?ごめんなさい、お見苦しいかっこうで」
ナ 廊下の奥から眠そうに眼をこすりつつ、覚束ない足取りでやってきたエリカは来客に気がついて、
恥ずかしげに肩にかけた上着を手繰り寄せ夫のもとへと向かう。
洋 「あぁ、この方が話があると・・・」
ナ 洋一が振り返るとそこには誰もいない。ただぽつんと古びた鍵が玄関のポーチに落ちているだけ。
不思議に思いエリカに視線を戻すとエリカも不思議そうに首を傾げている。
洋 「エリカ、帰っていく姿を見たかい?」
エ 「えっ?ごめんなさい、あなたの影になっていて見えなかったわ」
洋 「そうか・・・わかった、部屋に戻ろう。今日は寒いし風邪をひくよ」
エ 「ふふふ、ありがとう洋一さん。それじゃあ先に戻るわ」
洋 「ああ、先にベッドに入っていておくれ」
ナ 洋一はもう一度玄関を振り返り足元の鍵を拾いあげる。
錆びてしまってざらりとした感触のそれ。嫌に気になった。ついエリカに隠れて拾うほど。
洋 「あの人の・・・落とし物、だよな」
洋 「(返さないときっと困る・・・はず。私が保管しておこう)」
ナ 心の中でそれを拾った理由を自分に言い聞かせて、ポケットへとしまう。
そして玄関の扉を施錠して妻の待つ寝室へと向かうのだった。
部屋に戻ればベッドに入って寝転がるエリカが洋一を見つめている。
エ 「洋一さん?どうしたの?」
洋 「ん?何がだい?」
エ 「ううん、なんだか上の空だったから・・・さっきのお客様、どんな人だったの?」
洋 「・・・その、とても綺麗な人だったよ。でもまるで幽霊か何かみたいに真っ白で、生気のない顔
をしていて・・・」
洋 「(闇に浮かぶ、仮面みたいな・・・全身真っ黒な恰好で、生き物じゃない気すらしてくる・・・
そんな・・・人物)」
エ 「そう・・・不思議な人だったんですね」
洋 「っ、え?あ、そうだ、うん・・・不思議な人だった」
エ 「ふふっ、それじゃあその人のこと、書かなくちゃね?」
洋 「書く・・・あぁ、そうだね、せっかくこんな面白い題材が転がってきたんだ。書かないと損だ」
エ 「ええ、そうよね。それじゃあ夜食でも作る?」
洋 「あぁ、ありがとう。梅干しのおにぎりがいいな」
エ 「わかってますよ、洋一さん。貴方の大好きな具ですもの」
洋 「・・・いつも悪いな、エリカ」
エ 「いいんです。私が好きでやってるんですから・・・ミステリー作家の洋一さんの妻。それが私」
