名もない林の中に
そのお店はあった。
都会の喧騒から
少し離れた林の中。
誕生日の夜、
アリス・ペンドルトンは
少し上品な赤いドレスを着て
お店の前に車を止めた。
店の前では、
タキシードに蝶ネクタイ姿の
レナード・ホフスタッターが
待ち構えていて、車のドアを
丁寧に開けた。
「こんばんわ、アリスお嬢様」
「こんばんわ、レナード・・・
正装も素敵ね♪」
「淑女のもてなしには
当然のことです」
にっこりと微笑むレナード。
コートとバッグを預け、
店内に入ると、そこは
ロウソクの灯りで
飾られていた。
幻想的な光景に
アリスはうっとりと見とれた。
「さあ、こちらへ」
レナードがアリスの手を取り
席まで案内する。
「今宵の珈琲は、
私からの贈り物ですよ」
デミタスカップに入った
珈琲がアリスの前に
差し出される。
その上に、
ロワイヤル・スプーンという
特別な形のスプーンを渡すように置く。
レナードは、
スプーンの上に角砂糖をひとつ置くと
ブランデーを注いで火を灯した。
薄暗がりに
角砂糖の青い炎が揺れる。
「・・・わあ・・・」
ブランデーの心地良い香りと
炎の美しさに酔いしれるアリス。
角砂糖が溶けた頃合を見て
レナードは、
炎ごと珈琲の中に落とした。
ジュッという音とともに
一段とまろやかな香りが漂う。
「さあ、こちらが
カフェ・ロワイヤルでございます」
そっとかき混ぜて
ひとくち飲んでみれば
まるでそこが夢のように、
ふわりとした世界に感じられる。
じんわりと
目を閉じて幸福感に浸るアリス。
レナードは、
夢から覚まさぬよう
そっと囁いた。
「お誕生日、おめでとう」
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