名もない林の中に
そのお店はあった。
都会の喧騒から
少し離れた林の中。
日曜の深夜、午前3時。
店内ではふたりの男たち
レナードとシェルドンが
紅茶を楽しんでいた。
シェルドンは
春摘みのダージリンに
心から満足している。
「さすがは世界三大紅茶のひとつだ!
セイロンのウバ、中国のキーマンに並ぶ味わいだね!!」
シェルドンの雑学に、
レナードは微笑みで応えた。
カップから立ち上る香りが
小さな店内に漂っている。
シェルドンは
ふと、思い立ってレナードに尋ねた。
「いまは幸せか?」
レナードは
突然の質問に少し戸惑った。
「・・・君にしては難しい質問だね。」
「簡単なことだよ。
イエスかノーか。 ただそれだけだ。」
「君はどうなんだ?」
「不満足ではない。」
「シェルドン・クーパーらしい回答だな」
レナードは
くすりと笑った。
「ここなら新鮮な素材も手に入るし、
静かで創作には快適な環境だからね。
でも、君は?
君はなぜ、僕といっしょにいるんだ?」
レナードは首をすくめた。
「僕にもわからないよ。
僕は君のように
理性的に動いているわけじゃないから・・・」
「君は多面的な性格をしている。
もっと真剣に考えるべきだ。
一時の感情に流されては
後悔することになる。」
「僕がいると邪魔かな?」
レナードが聞き返す。
シェルドンは少しだけ慌てた。
「とんでもない!
君の存在はもはや必要不可欠だ。
君が雑務をこなしてくれるおかげで
僕は創作に没頭できるからね。」
「なら、特に問題ないね」
そう言って笑うレナード。
シェルドンは少しむくれた。
「なぜか答えをはぐらかされた気がする。」
「気のせいだよ」
窓の外から
光が差し込んでくる。
もうすぐ夜が明けるのだ。
シェルドンは席を立ち、
厨房に向かう。
「そろそろ、仕込みの時間だ。
さすがの腕前だ、レナード。
素晴らしい紅茶だった。」
「どういたしまして」
「それに一般的に言う
『世間話』ができて楽しかった。」
「こちらこそ、楽しかったよ」
シェルドンが立ち去った後、
レナードはひとり、窓の外を
ぼんやりと眺めた。
朝日がゆっくりと
この世界を照らす。
「・・・不満足ではない」
レナードは
くすりと笑いながら
そう呟いた。
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