名もない林の中に
そのお店はあった。
都会の喧騒から
少し離れた林の中。
アリス・ペンドルトンは
六月の雨の中、そのお店に座っていた。
もともと行くあてがあったわけじゃない。
たまたま立ち寄ったケーキ屋で
ドカ食いがしたかっただけなのだ。
ぼんやりと窓の外を見る。
おそらくこの雨は
別れた彼の上にも降っているだろう。
ざまあみろ。。。
そう思わないわけでもない。
しかし、どこか心配も入り混じっている。
混乱する気持ちを静めるように
アリスはすっかり冷めた珈琲を飲んだ。
「そろそろだな」
ポツリとレナードが呟く。
さっきまで新聞を開きながら
ビクともしなかった男だ。
「香りがしてこないか?」
そう言われると
甘い香りが店内に漂っている気がする。
次の瞬間、シェルドンが
ブルベリーパイの乗った皿を持って
厨房から出てきた。
「さあ! 焼けたぞ!!
本物の味を教えてやる!!!」
アリスの目の前に
焼きたてのブルーベリーパイに
バニラアイスクリームが添えられた皿が置かれた。
アリスは、
そっとフォークでブルーベリーパイを
ひとくち食べようとする。
その瞬間、シェルドンのダメだしが入る。
「違う、違う!!
アツアツのパイにアイスクリームを乗せるんだよ!!!」
一瞬、げんなりしたアリスだが、
ここはシェルドンの言うことを聞くことにした。
アイスクリームをパイの上に乗せる。
冷たいアイスが、パイの熱で少しとろける。
口の中に含むと、ブルーベリーの酸味と
バニラアイスの香りがひとつになり、
ふわりと懐かしく、なんとも言えない味が
身体中を満たしていく。
気がつけば
涙を零していた。
たった一口。
その一口が心のたがを外してしまった。
「お味の方は?」
シェルドンがにっこりと微笑む。
「・・・美味しい・・・」
泣きながら、アリスが呟く。
レナードは
新しく淹れた珈琲を
アリスに差し出した。
「これは僕のおごりだ」
そう言って
レナードもまた微笑んだ。
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