もう何もかも異常な2020年だったが、ついに後半に突入か…当ブログもどれほど需要があるかは分からんが、ボチボチ続けていきたい。どうでも良い話だが、ヤフオクでグノーの「ファウスト」のCDの落札を逃してしまった…まあもっと安く入手できるチャンスはいずれ来るとはいえ、一番豪華なキャストで本命視していたミシェル・プラッソンのEMI盤だったのに残念!!ちょっと前はスラットキン指揮、ドミンゴ、スヴェンソン出演の「ロミオとジュリエット」をミスってしまった。グノー人気が日本で高いとはとても思えないが、あまり我輩にとって縁がよくない作曲家なのかもしれない。我輩、パリのグランド・オペラというだけでコーフンする人間だというのに何と言うことだ。ま、素直に次のターゲットに切り替えて真面目に仕事に励むことにします。

前々回でハッセをちょっと取り上げたついでだが、「ピラモとティスベ」という傑作オペラを取り上げる。この作品、1768年初演とかなり古いのだが、時代を数十年も先取りするような所があってかなり興味深いのである。

 

 

現在入手可能な全曲盤はcapriccioのシュナイダー指揮のだけですか…大傑作だけに勿体ないというか、グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」やモーツァルトの「魔笛」に匹敵する名作という事だけは言っておきたい。この録音のおかげで自分のなかでハッセブームが起き、色々と当時(2010年頃)出つつあったオペラやオラトリオの新録音を買い集めたのだが、バロックと古典派の狭間という難しい時代背景やキャストに要求されるテクニックの高さもあって、これを越えるオペラの演奏はまだ出てないという印象だ。「アントニウスとクレオパトラ」「シロエ」と来て、中期の代表作である「見捨てられたディドーネ」に挑戦したのだが、ドイツの地方オケの粗雑な演奏とカットばかりの糞録音のせいで見事に挫折…naxosのCDなので高望みする方がアホとはいえ、古楽アプローチでも作品に愛のない演奏をする人間はごまんといるので、今後気を付けなきゃいかんと思う次第だ。ハッセの全曲録音と言えば、「クレオーフィデ」「コンタディーナ」「アルタセルセ」が残っているが、ぼちぼち数年のうちに聴くかもしれない、といった所。ハッセはオラトリオやカンタータの作曲もしていて、入門するならハズレの少ないそちらのCDから始めるのが良いかもしれません。メロディーがまろやかで聞きやすい、というのがハッセの音楽全般の特色なので、どれを取ってもそれなりの満足を得られます。

で、本題に戻って「ピラモとティスベ」の話。何がこの作品凄いかって、「ロミオとジュリエット」のモデルとも言われる純情でセンチメンタルな物語を、全く妥協のない手法で見事に最初から最後までやり切ったという事なんだよね。登場人物はわずか3人と、小さな劇場でも上演できるような規模ですが、オペラとしての盛り上がりは19世紀ロマン派の作品に勝るとも劣らない!!リエート・フィーネというのが一般的な古典派リベラル全盛の時代にあって、ちゃんと悲劇をやり尽くしているのが凄いというか。ハッセも生涯最高の出来といったらしいですが、これの次作である「ルッジェーロ」の初演を最後に引退しています。やはり集大成的位置付けがあったのだろうか。1700年代後半というのはモーツァルトの時代とされる訳ですが、オペラの歴史的にさほど豊かだった時代だとは思えません。モーツァルトファンには悪いが、「イドメネオ(どういうわけか未聴)」はカンプラの方が上出来だと思うし、フィガロ、ドンジョバンニは喜劇にしては音楽が冗長ではないか?カンプラのイドメネとモーツァルトの聴き比べは是非ともやってみたい所です。

台本は2幕構成だが、各幕の終わりにバレエが付いており実に豪華だ。後期のハッセの音楽はかなりフランスかぶれの様相を見せており、フルートが活躍するオケの音色がじつに優雅。上記の全曲盤では名手、コンラート・ヒュンテラーが吹いていますが、古楽器の柔らかい音色とソプラノが溶け合って美しいハーモニーを形成するのは、唯一無二の興奮じゃないだろうか。カナダ生まれのソプラノ、アン・モノイヨスもさほど録音が多い訳じゃありませんが、自身最高の出来映えだと思われる。

久々に前半から筋を追いながら聞き始めてみたんだけども、やはり素晴らしいのは後半の第二幕に尽きると言っても過言ではない。youtubeで無料の音源も転がってるのでそちらも参考にするとして、駆け落ちを決意→待望→焦燥→死という流れが実に自然に描かれていて、イタリアオペラの教科書としても良さそうな最強のスペクタクルが、実に素晴らしいというか。筋書きは日本人にもなじみ深い「ロミオとジュリエット」に近いので、とても入り込みやすい作品であるし。登場人物はピラモ(男性)、ティスベ(女性)、ティスベの父(二人の結婚に猛反対する)という三人だけだが、どういうストーリーかは大体想像つくでしょ?
第二幕は事実上、死を前にしたティスベの一人芝居の様相を見せるが、長大なレチタティーヴォに始まって焦燥を表すアリア、後半は華やかなロンド形式のカバレッタでピラモを待ち望む愛の歌が結構長く歌われるのだが、ここの部分の20分強は相当演技力と技巧を兼ね備えたソプラノでないとサマにならないと思う次第。が、当録音のアン・モノイヨスは完璧にやってのけている。まさに神・神・神というべき瞬間。
同じメロディーの繰り返しがまるでポップスのサビの部分のようにしつこく心に残るのだが、これは心配と不安が入り交じった中での躁状態を表すようであり、ここでの楽しげな音楽が一気に終盤への惨劇へとつながって行くジェットコースター的見事な展開っぷりが、このオペラの最大の見所といっても良い。

悲劇への分岐点、ライオンが登場する場面はホルンの強奏によって表される。古代オリエントのどこかが舞台の劇なのだが、正直ライオンがうろ付くような町外れ、ってどんなものよ?って思ってしまいますが、アフリカのサバンナではなく野生のライオンがそこかしこにいたような時代があったのだろうか。舞台はローマにしてライオンは動物園から逃げ出した、とかの方がまだ説得力あるような気がしてなりませんが、それにしても良い作品です。やっぱり純愛ものは素晴らしいなあ~!!

当作品の見所(要約)
・ピラモとティスベの駆け落ちを決意する二重唱(第一幕)
・ティスベ、町外れの森の中で恋人を待ち続ける長大なモノローグと祈り(Infelice,in tanto orrore~Rendete,eterni Dei)
・ピラモの到着と死
・ティスベ、真実を知り絶望、最後のデュエット(泣けます)
・父登場、二人の亡骸を前に慟哭

最後のバレエ音楽まで含めてすべてが「神」としか言いようのない出来映え。ハッセ・ルネサンスの要として、ぜひぜひ後続の新録音にも期待。

(追記・ブログデザインを再び変更しました。適当に決めたらピンクっぽいのになっていたので。未だにモバイルよりパソコンからのアクセスが多いようなのでその点配慮します。アクセス数にどう影響するか…)