いやー、暑いなあ…

という訳で更新も滞りがちであります。最近paypayの便利さに目覚めてしまって、ヤフオク!で面白いものを見つけては手当たり次第に、(という程ではないが)落札して楽しんでいるところであります。

今回取り上げるブツも、ヤフオク!で1000円以下と非常にお買い得だったもの。

 

 

またまたマイナーな作品を取り上げて…と顰蹙を買うかもしれないが、一応youtubeで全曲聞こうとすれば聞ける作品なので…2009年録音とかなり最近のリリースのはずだが、アマゾンにも楽天にも全曲盤のリンクがなかった。という訳でグレトリの「アンドロマック」というオペラ。正真正銘の悲劇です。1780年初演。フランス語。


我輩はフランス語オペラが大好きで、前にもマイヤベーアの「預言者」を取り上げてるわけだが、やはり長いオペラより短いオペラの方が今の時期良いよね、ということで、全曲90分前後のこのオペラを取り上げてみました!




グレトリ(1741-1813)はベルギー生まれのパリで活躍した作曲家なワケだが、モーツァルトやハイドンと同時代で完全に隠れてしまっている。歴史上偉大な作曲家として知られておりそこそこ上演されるものもあるが、我々日本人にとってはまだまだ縁遠い作曲家だろう。とはいえ分かりやすいキャッチーなメロディもあり、個人的にはモーツァルトよりもずっと磨かれた「美」があって素晴らしい作曲家だと思うのだ。ドゥセックやボッケリーニと同傾向のゴージャスにしてストイックな感覚を、オペラの世界に持ち込んだ天才と言えるだろう。


なんで小難しい(と世間では考えられている)ギリシャ悲劇、それも「アンドロマック」なんだよと思われるかもしれないが、当方はロッシーニの愛好家なので随分前にこれと同じ劇を原作とした「エルミオーネ」というオペラを視聴してるのであり、ストーリーはほぼ同じなので予習なしにすんなりと入り込むことができたのである。あとはグルックやバロック期のオペラが好きな人はこの作曲家を知らなくても素直に楽しめると思う。登場人物も少ないし、悲劇としても普遍的な内容を持っており永遠に古びない内容であろう。原作であるラシーヌの「アンドロマケ」の粗筋はwikipediaででもどうぞ。


いやーこの作品、どうしても以前聞いたロッシーニのイタリアオペラと比べちゃうものがあるのだが、グレトリはロッシーニの代表作である「ウィリアム・テル」も約40年前に作曲しており、二人の作曲家は何か通ずるものがあるのかと思っている。ただ単に偶然かもしれないし、洒落た喜劇で名を挙げた作曲家として、やはりロッシーニ自身が模範とするところもあったのかもしれないし。スポンティーニ、ケルビーニ、マイールなど、この時代のイタリア人作曲家はフランスかぶれが非常に多かったというのもあり、ロッシーニも例外ではないのだ。


どちらかというとケルビーニ等の後のオペラの雰囲気も感じさせつつ、やはり革命前の作品なので優雅な雰囲気も感じますね~。全三幕で各幕30分ほどでサクサク進むので、ロッシーニの二時間超の作品と比べてもどこか重要な部分を削ぎ落としたんじゃないか、と心配してしまうのだが、立派な序曲やバレエ音楽、合唱も加わってこのコンパクトさ!!ロッシーニを貶したいワケじゃないが、この緊迫したストーリー展開の妙は見習ってほしいですね~。グルックの「トーリードのイフィジェニー」と同時期に作曲初演された作品ということもあり、かなりグルックの「改革オペラ」的な作風を取り入れたとあるのだが、確かにアンドロマックのアリアなどにグルック的な雰囲気を感じることができ、合唱が要所要所で活躍し作品を締める所などは、まぎれもなくフランス流のトラジェディ・リリクですなあ。ただ、メロディの扱い方などはイタリアオペラに近い要素もあり、やはり後のパリ音楽院楽派(ケルビーニ、ベルリオーズ、グノー等)の先駆者という感じです。


このニケ盤は歌手もオーケストラも合唱もすべて揃っており文句無しなのだが、既にCDは廃盤状態なのかな…事実上この劇の主役は愛と嫉妬に荒れ狂うエルミオーヌだといって良いのだが、この盤で歌っているマリア・リカルダ・ヴェッセリンクというソプラノも文句なし!!おそらくユダヤ系でオッフェンバックとかの上演で良く見かける人との印象だが、ヘンデルの「ロドリーゴ」「アマディージ」等で主役を張ってる録音もあり、バロックものも得意とするようだ。顔はもうちょっと美人だと思ってたものの、ダニエラ・バルチェッローナやアンナ・カテリーナ・アントナッチと比べると大分落ちるな…ま、太っているけど舞台では非常に映えるタイプだと思います。その他の役も中堅どころの実力派を集めており安心の出来映え!!


あと、重要なロッシーニ作品との違いですが、エルミオーヌに熱を上げる求婚者、オレステのパートがテノールでなくバリトンなので、かなり悪役イメージが強い、という事です。登場するやいなやアスティアナクス(エクトールとアンドロマックの遺児)を殺せ、と叫びまくるなど、こちらの方が原作通りなんでしょうが狂気じみた感じ。最後には王も殺しちゃうので善悪の見境もつかない愚か者なんでしょうが、ロッシーニのエルミオーネだと耀かしいテノールのパートが与えられており、エルミオーヌの狂気の被害者という感を非常に受けます。だいぶ前にdvdを見たっきりでうろ覚えなのだが、アンドロマックがエクトルの墓の前で嘆くシーンなどはあったかな?グラインドボーン劇場での上演のディスクは演出を除けば完璧といって良いのだが。こちらもyoutubeに転がってたりするのでオススメです!!

 

 

いやー、久々に充実した作品を味わったという印象。指揮のニケ氏はいろいろと興味深い録音をリリースしているのだが、あまり最近の活動には注目していなかった。が、これほど円熟味を増して、「熱い」指揮者になっていたとは。どちらかというとラモーやリュリ、シャルパンティエでなよなよした指揮をする、ウィリアム・クリスティの二番煎じ的存在と思っていたが…最近入手したグノーの録音があまりに素晴らしかったため、急遽これも取り上げてみた次第。コンマスのアリス・ピエロー、ガイヤール姉妹といった、フランスバロック好きにはたまらん器楽メンバーが揃っているのも魅力的です!!