「お待たせ」
あらかじめ連絡しておいた待ち合わせ場所に車でやってきた俺は、車内でジェジュンを待っていた。
暫くするとコンコンと窓をノックしてからドアを開けるジェジュン。
「ごめん、待ったかな?」
「大丈夫、さっき来たとこ」
「そう、よかった」
少し微笑んでシートベルトを締める。
何故か緊張して前しか見れずにいる俺は、ハンドルを握ってとりあえず車を走らせた。
「あ、そうだ。今日の店なんだけど、俺選んでいいかな?」
「あぁ、いいけど」
「よし、じゃぁ次の信号左に」
その後はジェジュンの指示に従って車を走らせる。
すると少しだけ郊外にあるひっそりと佇むレストランに着いた。
同じ男にわざわざエスコートをするのも可笑しいとも思ったが、店のドアを開けて待ってくれていたジェジュンの頭の上でドアを支えて先に入る様に促すと、ジェジュンは俺を驚いて見上げた後少し微笑んで先に店内へ入った。
「キム・ジェジュンです」
ウエイターにそう伝えたあと、レストランの奥にある個室に案内される。
「予約してくれてたのか?」
「うん。ここ人気なんだ。予約じゃないとなかなか難しくて」
テーブルについてジェジュンのおススメを一通りオーダーした後、二人きりの空間になる。
「ここのものはどれを食べても美味しいんだ。だから俺も結構通ってた」
「……叔父と?」
俺の言葉に驚いて目を見開くジェジュン。
そんな反応をすることなんてわかっていた。
だけど聞かずにいられなかったのは、俺には隠して欲しくなかったから。
「…はは、うん。そうだよ。ユノの叔父さんと」
テーブルにある食前酒のグラスを傾けながら何かを思い出すように微笑んだ。
「叔父さんに連れてきてもらったんだ。」
想いに耽る彼を見ていると、急に孤独感に苛まれた。
それは、彼が俺を感じていないから。
この空間は叔父さんと彼のものだ。
俺が立ち入ってはならない空間なんだと思い知る。
この場所や時間の何かもが二人の思い出に溢れていて、ただ俺一人だけが叔父さんと彼の世界に存在しないモノ。
「……はは。ごめん」
ジェジュンは俺に謝った。
その謝罪の意味が俺にはよくわからずにすこし首を傾げると、グラスを静かに置いた。
「俺の事、軽蔑してくれていい。ユノの大切な人たちを騙していたんだから」
「…。」
「俺は知ってた。彼のこと全て。奥さんがいること、子供がいること、全て。全部知ってたんだ。それなのに俺はずっと彼と…」
そして彼は悲しそうな笑顔で俺を見た。
「…ごめんなさい」
なんて返事をすればいいのかわからなくて黙ったまま。
ジェジュンから目が離せずにいるものの、その視線には怒りも軽蔑も何もない。
それをジェジュンは感じ取ってくれてるのだろうか。
気の利いた言葉を掛けてやればジェジュンの罪悪感も少しは軽減されるのかもしれないけど、取り繕ったような言葉を掛ける気にもなれない。
――――コンコン。
ノックのあと、ウェイターが料理を運び込む。
静かに並べられるテーブルの上をただ無意識に目で追う。
質の良さそうな皿やグラス。
このテーブルを挟んで彼らはどんな話しをしたんだろう。
その時、ジェジュンは笑っていたんだろうか。
今のような悲しい笑顔でなく。
幸せそうに笑っていたんだろうか。
俺がまだ見たことがない笑顔で……
「今日はありがとう」
ジェジュンの家の前に車を停めると、シートベルトを外しながらジェジュンが言った。
隣を見るとジェジュンは微笑んでいた。
「気を付けて。おやすみ」
そう言ってドアを開けて脚を地面に下ろした瞬間、俺はジェジュンの腕を掴んだ。
驚いて振り返ったジェジュンの顔。
「また、会えるかな」
「…。」
「また連絡するよ」
「…うん」
戸惑った顔をしていた。
無理矢理頷かせたのかもしれないと思いつつも後悔はしていなかった。
俺を見送るジェジュンの姿をバックミラーに写しながら、どこか後ろ髪を引かれる想いで車を走らせた。
俺がジェジュンに執着する理由。
それはジェジュンが消えてしまいそうだから。
さっき交わした口約束だって、不確かなものだ。
でも、それでも次の約束をせざるを得なかったのは、そんな不確かなものですらも繋いでおきたかったから。
to be continued...