村上春樹お好きですか?
私は大好きです。彼の書いたものは細かいエッセイに至るまでぜーんぶフォローしています。
何が好きかって、「存在を感じているんだけれど、言葉にできないこと、下手に言葉にしたら、突拍子もない嘘にしか聞こえないこと」を、これ以上はないリアリズムで書いていること。
「1Q84」は、知らないうちに月が二つあり、首都高の三軒茶屋に非常口がある世界に移動した話です。過去もちょっと違う。そういうとSFのようですが、彼の話は、SFのようなまるで作り話、として楽しむ話とは違い、現実とその隣にある世界が混ざっていく様子がありありと感じられる。
あるインタビューで、こう語っていました。
「僕は自分について語り、自分を探っているだけです。そして作品ごとにさらに深いところに降りていこうとしています。自分をよりよく知るために、井戸を掘っていきます。これは比喩ですが、僕は堅い壁を通り抜けて、向こう側の世界を目にします。それから元いた場所に戻ります。それが小説を書くということです。そういう作業ができれば、世界のどこででも読者を見つけることが可能になるかもしれない。孤独と不安を感じさせる壁、あるいは境界を抜けることができれば、別の人間になれる。もっと自由になることもできます。僕は自分の小説で、そうしたことが起きるのを目指しています。」
孤独と不安を感じさせる壁を抜けること、それが今私の中を掘りながら行なっていることです。壁は鋼鉄のように硬いですが、コツコツとツルハシで掘っています。
