翔ぶが如く!    5

「来た来た来た〜♪」
「エースケ!俺もうダメ!もうダメ!」

「おまちどおさまでした」

店員さんが笑顔で置いていく。
ホカホカの牛丼が目の前に並んだ。

「うまそー!」
「うまそー!」

店員さんは調理場に戻って、今度は白飯を持ってきた。

「ツッチー!急いで!」
「おう!」

何を急ぐかというと、牛丼の上に乗っている「具」に汁気が残っているうちに素早く白飯の上に移動させなければならないのだ。

牛丼(並)を左手で持ち上げて白飯の上に持っていき、ササっと「具」を乗せ替える。

この間に生玉子とお水が運ばれていた。

素早く玉子をときほぐし、醤油を少し多めに入れる。
醤油が多めなのは汁気が無くなったご飯に新しく味を染みさせるため。

ニョロリンと玉子を具の上に回しかける。

「エースケ、七味とって!」

「紅ショウガは?」

「たのむ!」

それぞれ具がいなくなった「元」牛丼に七味と紅ショウガを「これでもか!」と乗せていく。
そして新しく牛丼になった方にも七味と紅ショウガを乗せて準備完了。

「エースケ!俺もうジュルリだわ!」

「うん!口の中ジュルジュル!」

持ってる箸をそのまま突き刺そうとするツッチーに

「いただきますは?」

と言うと

「あぁ、そっか!」

と言って、ツッチーも手を止めて、2人で手を合わせながら「せーのっ」で

「いっただっきまーす!」
「いただきまーす!」

まずは「元」牛丼の白飯へ突撃!
白飯と言っても見た目は「紅ショウガ丼」になってはいるが、腹ペコ状態にはそれも美味く感じるのだ。
実際、現在でも好きである!

お預けのあとの犬みたいに、ガフガフと飲み込むように食べていく。
箸がチャッチャ、チャッチャと威勢よく音を鳴らす。

「かぁ〜!うんめぇ〜!」

口の中に米粒が詰まってる状態でツッチーが叫んで水を一口含ませ、そのままゴックンと音がしそうな勢いで飲み込んだ。

「うん!サイコー!」

こちらも米粒だらけで答える。

紅ショウガ丼は白飯に元々の牛丼の汁が染みていてるので実に掻き込みやすいのである。
そしてこれを食べ終わらないと真の牛丼に辿り着けない。

ガッガッ、ガッガッと一気に流し込んだ。

「よ〜し!では本日のメインイベントってかぁ〜♪」

眉毛をピョコピョコ動かしながらニヤケ顔でツッチーがこっちの顔を覗き込む。

「ふふふっ、メインだね!」

「おうよ!メイン!メイン!頂いちゃうよぉ〜ん♪」

一足先にツッチーは牛丼を頬張った。
そして動きが止まる。

目をつぶって、顎を突き出し、天井を向く。
肩はぐにゃりと垂れ下がり、丼を持つ左手も、箸を持つ右手もペタリとカウンターに乗せて

「はぁ〜⋯うんめぇ〜⋯」

呟くように弱々しくも満足げな声を出した。

それを横で見せられたこちらは堪らない。

「ぶっ!」

と言って吹き出しそうになるが、もったいなくてそんなことは出来ないので我慢する。
おそらくはどんぐりを頬にため込んだリスのような顔をしてただろう。
口の中から米粒がいくつか鼻の方へ飛んだようで、電気が走ったように痛い。

「痛!痛い!鼻痛い!」

口と鼻を押さえながら顔を前に出す。

「どったの?エースケ?」

まだ顔に力が入りきらないツッチーが聞いてきた。

何とか口の中にあるものを水を含ませて飲み込んだ。

「カハッ、カハッ、変な声出すなよツッチー!」

「えっ?なに?なに?」

そりゃ本人はわかるはずもない。
完全に自然体で気が抜けてたのだから。

「カハッ、カハッ、もういいよ!あ〜鼻痛ぇ〜」

スンッスンッと鼻に息を抜きながら米粒を浮かして一気に息を吸い込み回収する。
これで一粒も逃すことなくすんだ。

「えっ?えっ?どした?エースケ?大丈夫か?」

「あ〜、もう後で話すわ〜」

「変なや〜つ〜!」

そう言うとツッチーはまた牛丼を食べだした。