翔ぶが如く!    4

お店の前に立つだけでいい匂いが鼻をくすぐる。

これだけでノックアウト!2人とも腹ペコだ。

サッシの扉を開けると美味しい香りが鼻を襲ってきた。

「エースケ!おれぁもうダメだ!俺に牛丼をプリーズ!」

訳のわからないことをニヤニヤしながら言うが、それは店員さんに言うこったよ!ツッチー!

「すみませ〜ん!並2つと白飯2つくださ〜い!」

「はーい!」

返事をしながら店員さんがお水を2つ持ってきた。
それがカウンターに「コンっ」っと置かれた途端に2人して一気に飲み干す。

「おかわりちょーだい!」
「おかわりください!」

同時に言っていた。

2人して笑うが、店員さんも笑いながら

「はいはい、お水ね。どうしたの?お兄ちゃんたち。そんなに喉乾かしてさ」

笑顔で話しかけながら水をコップに足してくれた。
それをまた口に持っていき一口飲んだあと、ツッチーが

「いやぁ〜マジ水美味い!助かったっス!」

「助かった?」
と店員さん。

「いや、僕たち上野から歩いてきたんですよ。途中走りながら」
俺が言うと

「そうだったの、じゃあ喉も乾いてるし、お腹も減ってるんだね」
と店員さん。

「いや、もうマジ腹ペコで!」
とツッチー。

「じゃあ急いで作るからね〜」
と店員さん。

くるりと背を向けてカウンターから調理場に行き、牛丼を作りだす。

お店の中にはカウンターだけの席で20席くらいだろうか。
俺たちの他にはオールバックで白シャツに蝶ネクタイ、黒ベストに着たキャバレーの店員さんが1人と、丼とビール瓶を前に置いたまま目を閉じて置物のように固まったおじさんが1人だけ。
牛丼を作る音だけが店内に響いている。

すると隣でツッチーが指を折りながら何かを数えはじめた。

「どしたの?」
俺がたずねると

「なぁエースケ、玉子もいけんじゃね?」
とツッチー

「玉子?」
そう答えると

「ほらぁ、いけるって、玉子!玉子も!」

「ん?」

一緒になって壁のお品書きを穴が開く勢いで覗き込み指を折って数えていく。

牛丼(並」⋯⋯350円
白飯⋯⋯⋯⋯⋯100円

これで1人 450円

玉子は?さぁ玉子は!

生玉子⋯⋯⋯⋯⋯50円

全部で1人 500円!
2人でなんと!ちょうど千円だ!

ラッッッッッッキー!!!!

「なぁ!ビッタシじゃーん!」

言うが早いかツッチーは手を振りながら

「すいませーん!玉子⋯⋯」

言いかけたところで、こちらが肩を押さえて止めた。

「んだよ!エースケ!ダメなんかよ!」

また眉間にシワを寄せてツッチーが唸るように言った。

「ちげーよ!1人50円で2人で100円だろ!」
俺が言うと

「だからよ!2人で玉子2つでいいじゃねーか!」

とツッチー。
眉間のシワはさらに深くなってる。

「それさ!玉子2つじゃなくて白飯もう1つ頼んで半分こした方が腹いっぱいになるじゃん!」

と俺が言うと、ツッチーの眉間のシワはスッと消えて、上を向きながら考えている。
が、クルッと顔をこちらへ向けて

「でもよ!満足度からすると玉子の勝ちじゃね?」

これまた今日一の笑顔で言ってきた。

「ん〜⋯でもな〜」

と俺が迷うと

「エースケく〜ん♪ 想像してみ!玉子のまろやか〜な味が肉と絡んで口に入った時のことをよ〜♪ たまんねーぞ〜♪」

ニヤケ面で言われて思わず喉が鳴る!

「だね!」
即決!

またも手を振りながらツッチーが

「すんません!玉子も2つ!あとお水も!」

「はーい」
と店員さん。

ちょうど出来上がった牛丼を持ってくるところだった。