翔ぶが如く! 3
「ねぇツッチー、さっき胸ポッケに入れたでしょ?」
「俺じゃねぇって、渡したじゃん!」
と、言われても、確かにお金を受け取ってはいないのだ。
よ〜く思い出してみよう。
今夜8時頃に金竜公園に行った時に久しぶりにツッチーに会ったのだ。
なぜ?そんな時間に公園に行ったかは別の時に。
そこでゲームセンターに行こうぜ!ってことになり、浅草のゲームセンターはコインゲーム(ギャンブル性高し)が多いので、普通のテレビゲームが多い上野のガード脇にあるゲームセンターへ行こう!となったのだ。
2人とも持ち金は千円程度しかなく、1人がゲームをしている間、もう1人は横で応援する形で時間を稼ぎながら楽しんでいたのだが、11時過ぎには2人してすっからかんになった。
それでも他の人がゲームをしてるのを眺めたり、やったことのないゲームの画面を眺めながら次に来た時に、このゲームはどうやってやるのか画面を見ながら勝手な攻略法などを2人してあーでもない、こーでもないとキャッキャ、キャッキャと楽しんでいたのだった。
しかしお金が無ければ実際にゲームをできるわけでもなく、画面を眺めるのにも飽きてきたので「帰ろうか」となり外へ出て夜のお店の立看板が立ち並ぶ路地を昭和通りに向かって歩いていると、2人同時に落ちている「財布」に気がついた。
少しの間無言で財布を見ながら立ち尽くすが、2人して
「ふん、ふふんふ、ふ〜ん♪」
という感じで
「僕たち何もしてませんよ〜」
ってな顔をしながら周りを確認して、ツッチーの
「よしっ!」
という掛け声で2人同時にしゃがみ込んだ。
黒というか赤というか、乾いた血のような色のゴツい財布だったと思う。
拾い上げたツッチーが素早く中を確認する。
「おっ!札が入ってる!」
「マジで?」
「おー⋯んっ?千円札ばっかだな⋯とりあえず持ってこう」
そう言ってズボンの後ろポッケに入れようとしたので
「ねぇねぇ、中身だけでいいじゃん」
と言うと
「そうだな、じゃあ中身だけ、7⋯8千円あるかな?ゴッチャンで〜す♪」
と言ってツッチーが中身のお札だけ抜いてこちらに向かって手を伸ばしてそれを見せてきて
「エースケが持ってろよ!」
その瞬間だった。
少し離れた路地の角から怒鳴り声が響いてきた。
「おう!ガキィ!人の財布に何してんだよ!」
2人してガバッとそちらを向いて、角からガラの良くない男たちが出てくるのに気がついた。
ツッチーはお札を持って突き出していた手を引き、素早くお札を胸ポッケに突っ込んだ。
その時に体制が悪く、昭和通り方面へ走り出そうとして2人で絡んで転んでしまったのだった。
そこからドタバタと逃げてきた訳である。
だから俺はお金を持ってはいない。
「ねぇツッチー、胸ポッケに入れたよね?」
あらためて聞き直す。
「しらぁ〜ねぇっての!持ってねぇよ!」
と言ってズボンのポッケに手を突っ込む。
「違う違う、胸ポッケだって!」
そう言うと
「だ〜か〜ら〜知らねぇっつー⋯」
胸ポッケを叩くと
(カサッ⋯)
っと音がした。
「ほらぁ〜!あるじゃな〜い♪」
と俺が言うと
「アレェ〜」
と言いながらツッチーは胸ポッケに指を入れた。
そして中身を取り出した。
「いくらあったの?」
俺が聞くと、出したお札を広げながら
「⋯千円⋯だけ⋯」
「はぁ?さっき8千円だって言ったじゃんよ!」
「あの時はそれくらいあったんだよ!アレェ〜おっかしいなぁ⋯」
「なんだよそれぇ〜!あとどうしたのよ!」
「いやぁ〜?ふっ飛んだ⋯⋯のかな?」
「えぇ〜マジかぁー!」
2人して顔を見つめ合うが、何故だか笑い始めていた。
笑いながら2人で肩を叩き合う。
腹を抱えてヒィヒィ言いながら
「エースケ、とりあえず並2つと白飯2つはこれで行けるぜ〜!」
「そうだね!食えるね!」
笑いながら牛丼屋の扉を開けた。