翔ぶが如く! 2
裏道を浅草へ向かって歩き、合羽橋の道具街を越えて八幡さんの路地へ入る。
真っ直ぐ進んで国際通りを渡れば六区だ。
国際通りを渡って丸石家具センターのビルを越えて六区に入り左へ曲がると浅草ロキシー、常盤座、東京クラブと3つの映画館が並んでいる。
この時間の浅草六区に歩いてる人はほとんどいない。
いるのは酔い潰れて立ち上がれなくなってる人と、色んな臭いが混ざったのを身にまとってオブジェのように転がっている浮浪者だけ。
たまに歩いている人もいるけど、まるでゾンビみたいだ。
それらを横を通ると東京クラブの先にオレンジ色の看板が光る牛丼屋。
「腹減ったなー!ツッチー!」
「おー!俺もう限界たー!食うぞー!」
肩をぶつけ合ったり、くるくる回りながら男2人でキャッキャ、キャッキャと店の入口まで来た。
「ツッチーは大盛り?」
「腹減ったからなぁ、並と白飯だな!」
この組み合わせはお金がない時に効率よく満腹にするためのいつもの手だった。
牛丼並盛りと白飯だけを頼んで、牛丼の具だけを白飯に載せ換えると牛丼とつゆの染みた白飯が出来上がる。
つまりは牛丼並盛りにわずかなお金を足せば二杯近く食べれるわけなのだ。
「あ〜!それだね〜!」
と答えて扉の前まで来て、確認したいことがあった。
「ねぇツッチー、お金持ってんの?」
まぁ、そもそも論である。
お金が無ければ食べた後で、ここでもまた逃げることになってしまう。
「あん?そんなのさっきのやつでさらに牛皿まで頼めんじゃん!」
⋯⋯?⋯⋯
「さっきのやつって?」
「あぁ?さっきのやつだよ!さっきの金!」
「だからさ、それ持ってんの?」
「持ってるって、なに?お前に渡したじゃんよ!」
「いや、知らないよ」
「ふざ〜けんなよ!さっき渡したろ!」
「だから知らないっての!」
お互いに顔を見つめ合って言葉が出てこなくなった。
ツッチーは自慢のリーゼントをクシャクシャと掻きながら考えている。
こちらも腕組みしながら考える。
「ねぇツッチー、俺渡されてないよ⋯」
ツッチーはさらにリーゼントをクシャクシャさせる。
「お前にさぁ、渡したじゃん!持ってろって⋯」
「だからさ、それ渡される前に逃げたんじゃん!」
「ん〜⋯だっけか?」
「そう!」
そう、このお金が今夜のトラブルの始まりだった。