ブログ第1回の案件として、ソフトバンクの株式交換によるイー・アクセスの買収を取り上げます。
今回、改めて取引内容を分析し、税務上の営業権の時価評価課税の推定まで挑戦してみました。
(ちょっと古いネタですがご容赦下さい。)
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まずは取引概要のおさらいです。
2013年1月1日に株式交換によりソフトバンク(以下SB)がイー・アクセス(以下EA)を完全子会社化。株式交換の対価としてSB株式を約70百万株交付し、株式交換時の株価3,140円をベースに取得価額2,194億円として会計処理されています(付随費用除く)。
そして、同月中にEA全株式を議決権なしのA種約22万株、議決権ありのB種1,649株に変更し(全部取得条項を活用)、B種の内1,100株を第三者(11株主)に売却しています(売却価格は非公表ですが、おそらく取得価額相当での売却と思われます)。
結果として、SBはEAの株式の99.5%を保有し(配当受益権も99.5%)、議決権は33.3%を保有した状態になりました。
議決権を33.3%まで下げた詳細な経緯は勿論存じませんが、要するに電波行政を取り仕切る総務省から物言いが付き、妥協案として形式的に議決権のみ1/3未満まで下げることで双方合意したものと思われます。日本の会計基準上、議決権が40%未満であれば、いわゆる「緊密な者又は同意している者」と合わせて議決権を50%超保有し、且つ一定の要件を満たした場合にのみ連結となりますので、EAはこの要件を満たさず、SBの持分法投資先となっています。
しかしながら、SBは2013年度からIFRSに移行することを表明しており、IFRS上、EAを子会社として連結することを開示しています。つまり、IFRS上は、実質的にEAを支配している(=重要事項の意思決定権がある)と判断したということです。日本基準も実質基準とは言われていますが、40%ルール等の形式要件から連結除外になってしまうわけです(総務省はそれでもよしとしたのでしょうかね。)。
さて、話を買収に戻し、会計処理を見てみます。
SBのEA買収価額は2,194億円に対し、EAの2012/12末純資産は817億円です。単純計算で投資差額は1,377億円。IFRS上、EAが保有する1.7GHzの帯域や顧客との関係等はおそらく無形資産として時価評価され、残った差額がいわゆる非償却暖簾となります。この当りの内訳は、SBの今後のIFRSでの開示資料で判明するものと思われます。
ところで、本件の公表時は、SBはEAの株価を52,000円と評価し、SBの当時の株価3,108円との交換比率を16.74としていましたが、その後のSB株価の下落(公表後10営業日平均のSB株価は2,589円)が価格調整条項にヒットし、1カ月後に交換比率を20.09に変更しました。この時点で想定していた買収価額は、SB株価2,589円×交換比率20.09×EA株式数約3.5百万株=1,809億円だったのです(当初公表時も同様)。
しかし、株式交換の時にはSBの株価は3,140円まで上昇し、結果として会計上の買収価額は2,194億円となり、想定より385億円も増加してしまいました(EA株の単価では52,000円から63,083円に上昇)。これはそのまま暖簾の増加になるわけで、既存のSB株主にとっては高値買いさせられたということですね。
そして、最後にこの案件で何より気になるのは税務上の取扱いです。
グループ外の会社を株式交換で買収する際、一定の要件を満たせば適格株式交換として課税繰延べとなりますが、本件においては、株式交換後にSBとEAの間に完全支配関係(発行済株式を全て保有する関係)の継続が見込まれず、適格要件を満たすことが出来ません。従い、税務上は非適格株式交換になります。
非適格株式交換の場合、完全子会社となるEAの保有している資産の時価評価課税が必要です。そして時価評価の対象資産には、いわゆる「営業権」も含まれます。では、EAはどのように営業権を時価評価したのでしょうか。上述の通り、買収価額と純資産の差額という意味では1,000億円を超えるわけで、かなりしびれる金額ですが、税法上、営業権の評価方法等は明示されていませんので、SB/EAの対応は興味深いところです。
この当りの取扱いは全く開示されていませんが、実は、既存の開示資料からそれなりに推測することができます。
これを検討する上で重要なのは、EAが元々多額の繰越欠損金(NOL)を抱えている点です。2012/3期の有報では、NOLに係る税資産が329億円なので、NOLの残高は913億円程度と思われます(税率36%で逆算)。その後12月までにどの程度消化しているかは不明ですが、12月時点での税効果を除く税金費用がほとんどありませんので、900億円近くのNOLが株式交換時点でも残っていると思われます。
実はEAは2013/3期の業績について英文でのみ開示を行っていますが、これを見ると、株式交換後の第4四半期のみの業績を確認することができます。すると、第4四半期は経常利益51億円(特別損益なし)、税効果を除く税金費用が44億円とわかります。2013/3期は課税所得の80%しかNOLの控除が認められませんので、この44億円の当期税金はNOL控除後の所得20%部分に対する税金です。すると、44億円÷税率38%(復興税含む)÷NOL控除20%=580億円がNOL控除前の第4四半期の課税所得となります。ここからざっくり経常利益51億円を差し引くと、残り約530億円が営業権等の時価評価益として2013/3期の課税所得に算入する予定の金額と類推されます。
この税務上の営業権は5年間で損金算入することができ、実質的に既存のNOLの延命効果があります。なるほど、年間の償却額は100億円強、EAの税前利益でうまく消化できる程度の水準に落ち着けたのでしょうか。そういう意味では、総務省からの指導(?)を巧く利用したとも考えられます。
尚、SBの本業の携帯事業者であるソフトバンクモバイルはBBモバイルというSBの子会社傘下の孫会社ですが、EAはSB本体が買収しているので、BBモバイルの兄弟会社になります。BBモバイルは連結納税を採用していますが、SB本体は連結納税を採用していませんし、一部売却で100%子会社ではなくなりましたので、EAのNOLの残り(営業権の時価評価益でも消化しきれていない部分)は切り捨てられません。NOLの残りや暖簾の償却費はEA単体の所得で消化していくことになります。
ちなみに100%子会社にしたままであれば、適格株式交換となり、営業権の時価評価課税はなくなります。それならそれでいいのですが、その場合の問題は、SBの取得するEA株式の税務上の簿価がEAの純資産ベースになってしまう点です。つまり株式の簿価にプレミアムが乗らないわけです。とすると、いつかEA株式をSBが売却した時に生じる課税が増大しかねないわけです。こう考えると、非適格株式交換も悪くないですね。
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さてさて、EAの株式交換は個人的には非常に興味深いネタでしたが、いかがでしたでしょうか。
SBの案件は、会計・税務的に面白いものばかりです。スプリントしかり、ガンホーしかり。
ということで、また次のネタを探しましょうかね、時間のある時に。
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追記:連結納税関係の記載を一部修正しました。6/27