(続)東芝の米国原子力事業の減損の分析 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

新年になりました。今年もよろしくお願いします。

 

で、早速ですが、昨年末に盛り上がった東芝の原子力事業の減損について、一部、訂正も含めて続編です。

 

1.     前回記事の訂正

 

まず、前回記事の訂正です。

 

東芝の会見を受け、数千億円の暖簾計上/減損の要因の1つである運転資本調整について、客先の承認を得られず債権が計上できない影響と記載しましたが、この点が誤りでした。

 

会見の中でも、(SWではなく)WEC側で債権が計上できないと説明されており、この債権というのはCBIから回収する運転資本調整のことを指しているものと思われます。(失礼しました)

 

つまり、SWの時価純資産の減少ではなく、WECにおけるSW株式の取得原価の増加(というか、減少しない)により、結果として、暖簾が増えるという理屈になります。

 

ただ、その肝心の運転資本調整でissueになっているポイントの説明はありませんでした。

 

 

2.     運転資本調整のissueは何?

 

その運転資本調整で何をモメているのか、という話ですが、ググったところ、WECCBIの係争についてのデラウェアの裁判所の決定を見つけました。

http://cases.justia.com/delaware/court-of-chancery/2016-ca-12585-vcl.pdf?ts=1480969870

 

運転資本調整(closing adjustment)の主張に巨額の差異が生じた理由は4点あるようです。

 

The wide gap stemmed from four changes that the Buyer made to the Seller’s Closing Payment Statement.

     First, the Buyer reduced by 30% an outstanding receivable on the Company’s balance sheet called the “claim cost.” The claim cost asset represented costs incurred and paid for by the Company for items that would be presented for recovery from either the project owners or the Buyer as a matter of contractual entitlement or as claims for overruns for which the Company was not responsible.” Compl. ¶ 29. The Buyer asserted that the Seller’s estimate of “100 percent collectability” violated GAAP.

     Second, the Buyer adjusted the claim cost receivable to reflect the cost of the design changes that were mandated during regulatory review. The Buyer established a reserve for these costs and deducted the amount of the reserve from the Seller’s Closing Payment Statement.

     Third, the Buyer increased by 30% the estimates of the cost to complete the projects. The Buyer made this adjustment because it believed that the projects would cost $3.2 billion more to complete than the Seller had initially predicted.

     Fourth, the Buyer claimed that the Seller had violated GAAP by omitting a liability of $432 million that related to the Seller’s acquisition of the Company. The Buyer deducted this amount.

 

Claim cost asset/receivableの減額調整や、プロジェクトの見積もりコストの増額調整等が論点のようです。

 

あれ、この中にプロジェクトコストの増加が、しかもけっこうな金額($3.2bil)で含まれていますね。これって、今回の減損の主要因として説明されていた見積もりコストの増加が同じものを指しているのでしょうか?

 

とすると、東芝/WEC側は、遅くともCBIに運転資本調整の金額を提示した20164月時点で、コスト増加について認識していたことになりますが、なぜ年末になって減損リスクを発表したのでしょう。

 

 

3.     結局、減損発生のメカニズムは?

 

ということで、現時点での纏めです。

 

今回の会見で説明されたプロジェクトの見積もりコストの増加が、CBIと争っている運転資本調整の主な構成要素だとすると、時系列も踏まえ、今回の減損発生のメカニズムはこんな感じでしょうか。

 

     SW買収時にプロジェクトの見積もりコストの大幅増加(=ロスコントラクト引当金等の計上によるSWの時価純資産の減少)が判明

     WECはこれをCBIから回収すべく運転資本調整に反映

     しかし、CBIからの提訴と並行して第三者会計士による算定を進めていたところ、CBI側にfavorな算定結果が出そうな状況に

     結局、買収価額が減額調整できないままSWの時価純資産が下落して暖簾が増加

     SWの時価純資産≒回収可能価額となるため、暖簾は即時に減損に

 

つまり、コスト増加と運転資本調整の合わせ技一本といったところですか。

 

まあ、4月時点での見積もり以上にコストが膨らんでいるのかも知れませんし、詳細はよくわかりませんけどね。

 

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ということで、今回はここまでですが、一点だけ補足です。

 

WECSWの買収価額は270億円といった報道がある一方で、企業結合会計における取得価額が139億円となっているところの説明です。

 

この270億円は、繰延対価の161百万ドルとマイルストーンペイメントの68百万ドルで構成されています。

 

東芝は、この内、繰延対価のみを取得原価としています(つまり、マイルストーンペイメントは今後、CBIが提供する役務に対する支払いであり、SWの取得原価ではないという整理と思われます)。

 

更に、この繰延対価161百万ドルを株式取得時の現在価値145百万ドルに割引き、そこからクレームの精算に係る公正価値30百万ドルを控除して115百万ドル(=139億円)が取得原価になっているようです。

 

では、今後の東芝からの開示を楽しみに待つことにしましょう。