プロジェクトX 小さな命を救え

 先天性心臓疾患 百人に一人の確率と聞いて驚いた、たまたま統合失調症の発症率と同じだったからだ。健康に生まれてくることの幸せをあらためて認識する。それはともかく先天性の心臓疾患、その症状は様ざまなのだろう。そんな中で心臓に穴が開いているような事例も多いらしい。その対策として心臓にパッドで覆うのが今までの方法だったらしい。子供が大きくなると、当然心臓も大きくなる。パッドの取り替えが必要になるのだ。取り替え、言葉では簡単だが、心臓に装着しているパッドの取り替えとは心臓手術であり、医師も勿論、手術を受ける子どもにとっても大変な負担である。ある医師がこの負担を何とか改善できないかと考えた。パッドが成長に合わせて大きくなるようなものはできないか、という疑問である。医師は様ざまな機関に問い合わせた。心臓に使うパッドである。そんな提案を引き受けるところは全く見当たらなかった。それでも医師はあきらめきれなかった。何回も手術を受ける子どものことを考え、あきらめきれなかったのである。そんな医師が小さな繊維企業に望みを託し、相談に訪れた。かっては日本の花形産業だった繊維産業、しかし今では完全に斜陽化していた。話を聞いた小さな町工場の社長は、従業員の中の一人の技術者に相談した。高い技術を持ち志が大きいことを知っていた。小さな繊維産業に閉塞感を感じたとき、その様子を見た先輩が、過去の開発した様々な製品を見せて、男の意欲を掻き立てたことがあり、繊維の進化を知らしめていた。社長の話を聞いて、その意欲をたぎらせたのだ。しかし、医師の要求は厳しいものだった。心臓の成長とともにパッドの繊維も拡張させる。男の知りえる範囲ではできなかった。男はそのとき、以前見た過去に開発した製品を思い出した。その製品を見直しているうちにヒントをつかみ取ったのだ。そして大きさが倍に拡大する繊維の開発に成功した。ところがこの製品には欠陥があった。繊維が拡大するので血液が漏れてしまうのだ。その欠陥を補う方法は彼にはどうすることも出来なかった。そして大手繊維メーカーに助力を仰いだ。大手メーカーも逡巡したが、医師とここまで努力してきた小さな町工場の職員の情熱に答えることにした。メーカーの名は帝人、この技術開発に80人態勢で臨んだとされている。そして繊維の穴を防ぐ方法の開発に成功したのだ。国の承認を得るには33人の症例が必要とされ、心臓手術を受ける子どもの親が進んで参加し、見事にその試練を突破したのだ。最初の手術者の子供が八歳になっているが、いまだに再手術なく元気に生活している。医師の小さな子供に何回も手術を受けさせたくない、その願いは立派にかなっているのだ。その進化に様々な技術者が拘わっている。中島みゆきの「地上の星」俺の大好きな中島みゆき、「地上の星」は人間の進化発展に尽くした人々がたくさんいると高らかに歌っている。この世の頑張った人たちにエールを送ります。